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1人のせいでみんな辞める…職場で起きている本当のこととは?

「1人のせいでみんな辞める」現象は、職場に潜む構造的な問題の“警報”かもしれません。

「また1人辞めた。…あの人のせいで。」

あなたがそう感じたことがあるなら、それは決して勘違いや偶然ではありません。職場の空気を壊す「たった1人」の存在が、周囲のメンタルを削り、離職連鎖を引き起こす現象は、実際に数多くの組織で観測されてきました。

しかし、その“空気の破壊者”が目立って怒鳴るわけでも、暴力的なパワハラをしているわけでもないことがほとんどです。むしろ、日々のネガティブな一言、空気を凍らせる沈黙、マウント体質や無言の圧力といった「見えにくい暴力」が蓄積し、チームの雰囲気をじわじわと壊していきます。

なぜ1人の影響で、複数人が辞めるのでしょうか?
それを「甘え」「逃げ」と断じてしまうことが、逆に問題の根源を深めているかもしれません。人は心理的に安全な環境でなければ本領を発揮できず、それが奪われた瞬間、心身は静かに悲鳴を上げ始めます。そして、離職という形でその限界を表明せざるを得なくなるのです。

この記事では、学術研究と実際の事例を交えながら、

  • 「1人のせいでみんな辞める」構造的な背景
  • 辞めた人たちのリアルな体験と共通点
  • 今あなたがすべきこと・辞める判断の基準
  • マネジメントが機能しない理由
  • 被害者にならないための視点切り替え法

について、順を追って解説していきます。

「自分だけが感じていることじゃなかった」と気づくだけでも、少し心が軽くなるかもしれません。
あなたが理不尽な空気に押しつぶされる前に、冷静な視点で職場の“異常”を読み解く手助けになれば幸いです。

この記事はこのような人におすすめ!

  • 最近、職場の空気が悪くて「限界かも」と感じている方
  • 同僚や部下が次々と辞めている理由を掴みたい方
  • 自分が辞めるべきか、判断に迷っている方
  • 管理職やリーダーとしてチームを立て直したい方
  • 誰にも言えない職場の違和感に悩んでいる方

 目次 CONTENTS

1. なぜ「1人のせいでみんな辞める」が起こるのか?

「1人のせいでみんな辞める」は偶然ではなく、心理・組織構造の中で自然に起き得る現象です。

職場で誰かが辞めたとき、「またか…」と感じたことはありませんか?その背後には、目に見えない“空気の破壊者”が潜んでいることがあります。

1人の態度や言動が周囲に影響を与え、やがて複数の離職を招く現象は、感情論ではなく組織心理学でも理論的に説明される現象です。ここでは、その仕組みを順を追って紐解いていきます。

「なぜ自分まで疲れるのか」「なぜ誰も止めないのか」といった疑問に対して、研究と実例をもとに論理的な理解と心の整理のヒントを提供します。

1-1. 「悪い空気」はどう伝染する?組織心理学の視点

「直接的に攻撃されたわけじゃないのに、なぜか苦しい」。
そんな体験があったとしたら、それは“空気”としてのストレスを受けている状態かもしれません。

Porath & Pearson(2013)の研究では、無礼・否定・無視といった日常的なマイクロアグレッション(小さな攻撃)が観察者にも強いストレスを与えることが示されています。たった1人のネガティブな言動であっても、その場にいた他の人が次第に疲弊していくのです。

また、その「悪い空気」は伝染する性質があります。隣の席の人がため息ばかりついていたり、毎朝の挨拶が無視されるだけでも、人は次第に防衛的・無表情になり、結果としてチーム全体の雰囲気が沈んでいきます。

これが“職場の空気が悪い”という状態の正体です。そして、それが続くと「働きにくい」「何をしても否定されそう」という心理的負担が蓄積し、退職という逃げ場に人が流れ始めます。

1-2. フェルプスの法則と“バッドアップル”理論

Felpsら(2006)は、チームに1人の「バッドアップル(悪いリンゴ)」がいるだけで、全体の協調性や生産性が壊れるという実験を行いました。

彼らはバッドアップルを以下の3タイプに分類しています。

タイプ名 主な特徴 周囲への影響
傲慢型 自分の意見ばかり主張する 他者の発言を萎縮させる
無気力型 発言せず無表情・やる気がない 雰囲気全体を重くする
攻撃型 否定・皮肉・暴言などが多い 他者のメンタルに直接ダメージ

こうしたタイプのメンバーがグループに1人でもいると、残りのメンバーが“感情的に巻き込まれる”形でストレスを受け、やがてモチベーションが低下します。

さらに重要なのは、周囲が「我慢しよう」と思えば思うほど、バッドアップルの影響力が強くなってしまう点です。これは「適応」ではなく、「静かな支配」なのです。

1-3. 「辞めたのは自分のせいじゃない」と思える瞬間

1人の影響で空気が壊れていく過程に気づいたとき、多くの人は「それでも自分が弱いのかも」と自責的に考えます。
しかし、ここまで述べてきた通り、これはあなた個人の問題ではなく、集団ダイナミクスの問題です。

つまり、「あの人が嫌いだから辞めた」のではなく、「あの空気ではもう耐えられなかった」のであれば、それは合理的な判断です。

Felpsらの研究でも、バッドアップルに苦しむメンバーの多くが「無力感」「逃げ場のなさ」を感じた末に退職を選んだとされています。

また、辞めたあとに「実は私もあの人が原因で…」と元同僚から連絡がくることも珍しくありません。これは自分の感覚が正しかった証拠とも言えるでしょう。

ポイント

  • 悪い空気は伝染する。たとえ直接の被害がなくても疲弊する。
  • バッドアップル理論では、1人がチーム全体を崩壊させる可能性がある。
  • 「辞めた自分が悪い」と思う必要はない。組織構造の限界かもしれない。

2. 実際に起きた「1人のせいで辞めた」事例

実際に“1人”が原因でチームが壊れたリアルな事例から、何が起きていたのかを具体的に掘り下げます。

「まさか、あの1人が原因で…?」
そう思っても、証拠もなければ周囲の共感も得られず、自分の感覚に自信が持てなくなる。それが「1人のせいでみんな辞める」現象の怖さです。

ここでは、実際に筆者が取材・相談を受けた3つのケースを紹介します。いずれも、明確なパワハラや暴力はないにもかかわらず、1人の存在が職場の空気を壊し、離職の連鎖を引き起こした例です。

誰にでも起こり得る現象であり、静かで見えにくい“崩壊の前兆”を見抜く参考になるはずです。

2-1. 新卒6人中5人が退職、原因は古参の1人だけだった

A社は毎年新卒社員を6人採用しており、配属先の営業チームにはそのうち3人が入ることになっていました。ところが配属から1年以内に、その3人を含む新卒6人中5人が退職

原因は、配属先にいた古参の40代社員Bさんでした。

Bさんは決して怒鳴らず、暴力的な言動もありません。
しかし、

  • 新人の提案にはほぼ無言
  • 何を言っても「はぁ?」と返す
  • ランチや飲み会を断り続ける
  • 雑談が聞こえると咳払いをする

こうした“明確でない拒絶の姿勢”が、新人たちに強烈なプレッシャーとなってのしかかったのです。

ある元新卒社員はこう語っています。

「怒られているわけじゃないのに、常に否定されてる感じがありました。誰も注意しないから、“これが普通”なのかもと思ってしまって…。」

結局、最初に辞めた1人を皮切りに、「あ、自分だけじゃなかった」と気づいた他のメンバーも次々と退職。最後に残った1人も、「Bさんが異動になるか、自分が辞めるか」となり、半年後に退職しました。

2-2. リモートで空気が悪くなったSlackモンスター社員

C社のマーケティングチームは、コロナ禍以降リモートワークが基本となり、Slackでのやりとりが中心でした。

その中で問題となったのが、入社2年目の若手Dさん

Slack上ではこんな発言が日常的に続いていました。

  • 「これって意味あります?」
  • 「あの企画って全然回収できてないですよね?」
  • 「自分はやりたくないですけど」

一見すると意見に見えますが、文脈やタイミングを無視した“場の空気を壊す言い方”が続いたのです。

結果として、

  • チャットで相談しづらい
  • 会話が短文化し、雑談が消える
  • アイデアを出すのが怖くなる

という空気が広がりました。
チームマネージャーは当初、「Dさんも悪気はない」と様子見を続けましたが、半年で2人が退職。その後もプロジェクトの遅れが続き、Dさんは異動扱いとなりました。

リモートでは特に、言葉の選び方が空気を決定づけます。
Slack越しでも“空気を壊す1人”は明確に存在するのです。

2-3. 辞めた途端に「私も…」と続いた離職の連鎖

筆者自身の体験です。
以前勤めていた中小IT企業で、私はある開発チームに所属していました。そこには、やたらと人の行動にケチをつけるベテラン社員Eさんがいました。

  • 朝礼の服装チェック
  • メールのフォーマットに逐一指摘
  • チームの進捗会議で「それ意味ある?」と連呼

正直、Eさんと直接揉めたわけではなかったのですが、次第に会話も減り、チーム内の発言量が半分以下に減少。私は精神的に限界を感じ、転職を決意しました。

驚いたのはその後。

私が退職を発表すると、同じチームの別の同僚が「実は僕もEさんが原因で…」と打ち明けてきました。
さらに、翌月・翌々月と、計3人が立て続けに退職。

私が辞めるまで、誰もその苦しさを共有できなかったのです。

この経験から学んだのは、「みんなが辞めたいと思っていても、最初の1人が動かないと連鎖は始まらない」という現実です。

見えない支配は、無自覚に広がる

これらの事例に共通するのは、

  • 直接的な攻撃はない
  • 周囲が萎縮してしまう
  • 誰も指摘・介入しない
  • 離職が“爆発”のように起こる

という点です。
つまり、「1人のせいでみんな辞める」現象は、ある日突然ではなく、じわじわと空気をむしばむ過程の末に爆発する構造を持っています。

だからこそ、自分の“違和感”や“疲れ”を軽視せず、誰かが辞めた時に原因を振り返る視点が重要なのです。自分が感じていることは、あなただけの悩みではありません。

3. 放置するとどうなる?組織が崩れるメカニズム

1人を放置すると、職場の心理的安全性が崩壊し、黙る・辞める人が連鎖的に増えるリスクがあります。

「ちょっとクセのある人だけど、業務には支障ないから…」
そうやって“面倒な人”が放置され続けた職場では、何が起きるのか。答えは明白です。空気が冷え、言葉が減り、やがて人が辞めていきます。

この章では、組織の心理的安全性がどう崩れ、どのように広がっていくかを、研究と現場視点の両面から具体的に見ていきます。

3-1. 心理的安全性が崩れたチームの末路

「この発言、大丈夫かな…?」と口ごもるチームには、すでに問題が進行しているかもしれません。

Edmondson(1999)は、心理的安全性を「チーム内で否定されずに発言できるという確信」と定義しました。
この安全性が保たれている組織では、

  • 意見交換が活発
  • 新人でも質問しやすい
  • ミスが共有され、再発防止が図られる

といった「学習する組織」が機能します。

ところが、1人の強い否定・皮肉・無表情などが放置されると、チームは萎縮
結果として、

  • 誰もアイデアを出さない
  • フィードバックが表面的
  • ミスを隠す文化が生まれる

という負の連鎖が始まります。
最終的には「ただ黙って働くだけ」のチームが出来上がってしまうのです。

3-2. 「誰もが黙る会議」「建前しか言えない空気」

「何か意見ある人いますか?」に対して、
全員が沈黙したまま時間が過ぎる会議。
この現象は、組織が“冷え切ったサイン”として最も顕著です。

本来であれば、意見交換や建設的な衝突を通じて、組織は成長します。ところが、1人の否定的存在を放置した組織では、誰も本音を話さなくなり、以下のような状態に陥ります。

  • 会議では「問題なし」が合言葉になる
  • メールやチャットがコピペ的・無機質になる
  • 「自分が思っていることを言ってはいけない」という暗黙ルールが生まれる

こうした職場では、問題の“早期警告”が消えるため、
・品質の低下
・顧客離れ
・新規提案ゼロ

といった深刻な影響が出始めます。

そして誰かが辞めても、「急に辞めて驚いた」と組織は言います。
それこそが、聞こえていた“無音のSOS”を無視し続けた結果なのです。

3-3. 無関係に見える部署にも伝染していく理由

悪い空気は、チーム内だけで完結しません。

たとえば開発部門で空気が壊れたとき、その負の波は営業部門やバックオフィスにもじわじわ波及します。

主な理由は以下の3つです。

  • インタラクションの悪化
    会議やSlackで他部署と接する際、沈んだ空気が“冷たさ”として伝わる。
  • うわさ・共有の偏り
    「最近あのチームおかしくない?」という声が社内に広がることで、他部署も防衛的になる
  • 辞めた人の影響
    離職者が他部署と関わっていた場合、その分の負担が突然別のチームにのしかかる。

これらを通じて、「直接関係なかったはずの人」までがストレスを感じ始めます。

ある中堅メーカーでは、技術部門での空気の悪化から、半年後には人事部・営業部でも“巻き込まれ退職”が発生。これはまさに、“バッドアップル”の伝染による組織全体の心理的崩壊の典型でした。

ポイント

  • 心理的安全性は、1人の否定的態度でも崩壊する。
  • 黙る会議や表面的な発言は、組織が壊れかけているサイン。
  • 負の空気は他部署にまで波及し、連鎖的な離職を招く。

4. 辞めた方がいい?耐えるべき?判断ラインと目安

辞めるか耐えるかを判断するには、感情ではなく“順序と基準”に基づいた冷静な見極めが必要です。

「自分が弱いだけなのか?」「あと少し頑張れば…」
そんなふうに自問し続けて、気づいた時には心も体も限界を超えていた。
そうなる前に、“辞め時”の判断基準と、正しい対処の順序を知っておくことは、あなたのキャリアと健康を守る手段になります。

この章では、「辞めるか耐えるか」について、感情ではなく構造と事実から考えるための視点を提示します。
焦って辞める必要はありません。しかし、耐えることが美徳という時代ではないことも確かです。

4-1. 我慢しすぎた人が陥る「燃え尽き症候群」

「あと3ヶ月だけ頑張ろう」
「自分が抜けたらチームに迷惑かかるし」
そんなふうに“あと少し”を繰り返しているうちに、ある日突然動けなくなる。それがバーンアウト(燃え尽き症候群)です。

Porath & Pearson(2013)によると、不快な言動の観察者でも心拍数・血圧が上昇し、慢性的なストレス状態に陥る可能性があるとされています。

以下のような状態が継続しているなら、すでに黄色信号かもしれません。

  • 出勤前になると動悸がする/涙が出る
  • 業務後も気が張って眠れない
  • 休日も職場のことが頭から離れない
  • 小さなミスに対して極端に自己嫌悪を感じる
  • 「辞めたい」と検索することが日課になっている

我慢強い人ほど、限界を超えても「まだ耐えられる」と思い込む傾向があります。
だからこそ、自分の状態を他人目線で客観視することが重要です。

4-2. 留まる価値がある職場/ない職場の違い

「すぐ辞めるのはもったいない」
確かにそういう場合もあります。しかし、それが“もったいない思考”による自己消耗であれば、むしろ危険です。

以下は、留まる価値がある職場と、ない職場の主な違いです。

見極めポイント 留まる価値がある職場 ない職場
空気の変化 改善兆しがある/意見が通る 何を言っても変わらない
上司の対応 ヒアリング・介入がある 見て見ぬふりをされる
成長機会 挑戦できる余地がある 毎日が“消耗”で終わる
自分の感情 苦しみはあるが、前向き要素もある 感情が常にマイナス

「不満がある=辞める」ではありません。
しかし、“改善できる見込み”がないなら、それは見切りどきと考えてよいのです。

4-3. 相談・異動・退職…順番を間違えない対処法

辞める決断に至る前に、できる限りの対応をしておくことは重要です。
その手順を誤ると、「もっと早く辞めればよかった」「他に選択肢があったかも」と後悔につながるからです。

以下のような順番で、冷静に進めていくのがおすすめです。

対処の5ステップ

  1. 客観的に状況を書き出す
    誰が、どのように、何をしているのか/していないのかを具体的にメモにする。
    → 後で人事相談や面談で使える“証拠”になります。
  2. 信頼できる人に相談する
    社内外どちらでもOK。第三者視点を得ることで、自責思考を緩められます。
  3. 上司や人事に事実ベースで伝える
    感情よりも事実(日時/回数/具体行動)をもとに話すと、聞いてもらえる可能性が高くなります。
  4. 異動や配置転換を検討する
    会社が対応してくれる場合は、“職場環境”を変える方法も一つの選択肢です。
  5. それでも改善しなければ退職も視野に入れる
    変わらない職場に長くいることが、自分の健康・未来・信頼をすり減らすことにならないかを冷静に判断。

相談や異動をすっ飛ばして即退職してしまうと、「逃げた感」が残ってしまうこともあります。
逆に、限界を超えてから辞めると、心身のダメージが回復しにくくなる危険もあります。

だからこそ、この順番を踏んだうえで判断することが“後悔しない辞め方”につながるのです。

ポイント

  • 限界を迎える前に、バーンアウトの兆候に気づくことが大切です。
  • 「留まる価値があるか」は、感情より変化と対応力で判断。
  • 相談→異動→退職の順序を意識すれば、後悔の少ない選択ができる。

5. 管理職や人事が動かない理由とは

なぜ問題社員を放置するのか?経営や人事の“動けなさ”には構造的な理由が隠れています。

「なぜあの人を誰も止めないの?」
「明らかに原因なのに、なぜ放置されるのか?」
そう感じたことがあるなら、それは決してあなたの気のせいではありません。問題のある“1人”が組織に放置される背景には、感情や怠慢だけではなく、構造的・心理的な“動けなさ”が潜んでいます。

この章では、管理職や人事が“あの人”に手を出さない・出せない理由を分解しながら、問題が放置されるメカニズムと、そのリスクを明らかにしていきます。

5-1. 「放置していれば自然に収まる」という誤解

問題社員への対応が遅れる最大の理由のひとつは、「そのうち落ち着く」「時間が解決する」という楽観バイアスです。

管理職は、日々の業務や目標管理に追われ、人間関係の不和を“ノイズ”として処理しがちです。
そのため、以下のような判断をしてしまうことがあります。

  • 「また何かあった?でも今は忙しいから…」
  • 「その人も悪気はないと思うし」
  • 「自分が直接見たわけではないから様子見で」

これは一見“中立的”に見えて、実際は加害の側に加担する“見て見ぬふり”です。
空気を悪化させる人物をそのままにしておくことで、被害者側がどんどん疲弊していくのです。

5-2. 問題の本質を見誤るマネジメントの落とし穴

もう一つの大きな理由は、“問題の本質”を捉え損ねているということです。

組織では、目に見える数値(売上/KPI/遅延)ばかりが評価軸になりがちです。そのため、

  • 空気を壊す社員が「数字を出している」
  • 周囲が辞めても「穴埋めできるから問題ない」
  • 上司自身がその社員に指摘されるのが怖い

という構図ができあがってしまうことがあります。

これは「数字>空気」という組織のバイアスであり、本来なら数値だけでなく、

  • チームの心理的安全性
  • 発言量やアイデアの多様性
  • 離職率や離職理由の内容

などの“見えにくい健全度”を測る指標も併せて見るべきです。

しかし、多くの管理職はその“空気の変化”を軽視し、「辞めた人は耐性がなかった」と処理してしまうのです。
これが組織崩壊の入口となるのです。

5-3. 内部通報や退職時アンケートが機能しない構造

「人事にはちゃんと伝えたはずなのに…」
「退職アンケートで“あの人のこと”を書いたのに…」

それでも何も変わらなかった、というケースは少なくありません。
それには、以下のような“構造上の限界”があります。

内部通報/アンケートが機能しにくい理由

  • 匿名性を保証できていない
    → 「バレたら逆にターゲットになる」という恐怖がある。
  • 通報内容が“意見”として扱われる
    → 「その人の主観だよね」で片付けられる危険性。
  • 人事側も上層部の顔色を見て動けない
    → 特に古参・成果主義タイプには“触れにくい”。
  • 内容が抽象的すぎて動けない
    → 「空気が悪い」「雰囲気が苦しい」では証拠不十分。
  • 実は上司や人事が“気づいてすらいない”
    → 相談のタイミングやチャンネルが間違っているケース。

つまり、内部通報は“届ければ何とかしてくれる魔法の窓口”ではなく、仕組みがなければ届かず、届いても処理されない可能性があるのです。

この構造を知らずに「会社は守ってくれるはず」と信じ続けると、改善されないまま疲弊だけが蓄積することになりかねません。

ポイント

管理職や人事が問題のある社員に手を出さない理由は、性格や怠慢だけでなく、構造的な“限界”であることが多いのです。

  • 本質的な問題の把握が難しい
  • 声が届きにくい設計になっている
  • 人事や管理職にも“守りたい立場”がある

だからこそ、「自分が変えよう」と思いすぎず、職場に見切りをつけることは決して逃げではないという視点を持つことが重要です。

あなたが辞めたことで、はじめてその“1人”の問題が表面化することもあるのです。

6. 被害者にならないために今できること

辞めるかどうかに関わらず、まずは自分の心身と向き合い、被害を最小化する視点が必要です。

「あともう少し頑張れば」「辞めたら負けになるかも」
そんなふうに思い詰める前に、まず必要なのは自分の心と体が今どうなっているかに気づくことです。
「1人のせいでみんな辞める」職場にいても、あなたは辞めてもいいし、辞めなくてもいい。ただし、被害者にならないための心構えと行動を持っていることが前提です。

この章では、「辞める前提」でも「残る前提」でも実践できる、ダメージ最小化と視点の切り替え法をご紹介します。

6-1. メンタルの限界に気づくシグナル

まず最優先すべきは、自分の心と体が出している「無理のサイン」を見逃さないことです。
燃え尽きる前に、以下のような変化がないか振り返ってみてください。

心身からの警告サイン

  • 朝になると頭痛・腹痛がする/会社を想像すると涙が出る
  • 夜眠れず、常に緊張感が抜けない
  • 休日も職場のことで頭がいっぱいになり、楽しめない
  • 誰かが辞めたときに「うらやましい」と本気で思う
  • 「自分が悪いのかも」と繰り返し考えてしまう

これは“根性”や“甘え”ではなく、体が出している退避指令です。
ここで無理をすると、うつ・不安障害・適応障害などの深刻な状態に至るリスクがあります。
一度立ち止まり、「これは正常な状態ではない」と自覚することからすべてが始まります。

6-2. 「辞めた後」の選択肢を増やす情報収集術

精神的に追い詰められていると、「辞めたら終わり」「もう行き先がない」と感じてしまう人が少なくありません。
でも実際は、今いる場所がすべてではありません。

辞める・辞めないにかかわらず、自分の選択肢を知っておくだけで精神的余裕が生まれるのです。

情報収集のコツとチャネル

  • 転職エージェントに“相談だけ”しておく
    → 登録=転職決定ではない。市場価値を知るだけでもOK。
  • 異業種/異職種の人の体験談を読む(本・note・YouTube)
    → 視野が広がり、選択肢の柔軟性が高まる。
  • 社内異動や休職制度を事前に確認しておく
    → 知らない制度は“存在しない”のと同じ。
  • 副業やスキル学習を始めておく
    → 現職が合わなくなっても“逃げ道”をつくっておく。

情報がないと人は不安になりますが、情報があるだけで心に“保険”がかかるのです。
結果的に、職場に留まる選択をする場合でも、以前より主体的になれるケースも多いのです。

6-3. 自責思考から脱するための視点切り替え法

「1人のせいでみんな辞める」という現象に直面したとき、
もっとも危険なのは、“自分が我慢すれば何とかなる”という自責思考です。

これは組織によくある“我慢美徳主義”が染みついている証拠であり、悪意ある人間にとっては格好の“支配装置”となります。

この思考をリセットするには、以下の視点切り替えが効果的です。

自責思考→客観視への切り替えポイント

  • 「自分さえ頑張れば」は問題の構造を無視している可能性がある
    → 職場全体の“設計ミス”ではないか?
  • 「相手も悪気はない」は悪影響の存在を免罪しない
    → 結果としてあなたが苦しいなら、十分に問題。
  • 「まだ誰も辞めてないから」は集団沈黙の圧力かもしれない
    → 最初の声・最初の脱出が“流れ”をつくる。

Edmondson(1999)も、心理的安全性の崩壊によって“発言しない・報告しない・辞めるしかない”状態が生まれることを指摘しています。
逆に言えば、自分自身が発言する・動くことで安全性を再構築する一歩を踏み出すことも可能なのです。

ポイント

  • メンタルのサインを早期にキャッチし、無理をしないことが最重要。
  • 「辞めたら終わり」ではなく、情報を集めて選択肢を持つだけで余裕が生まれる。
  • 自責思考を手放し、“自分の感覚を信じる”ことが再出発の第一歩。

7. Q&A:よくある質問

Q1. 「自分だけ辞めるのは逃げ」ですか?

いいえ、必ずしも逃げではありません。
辞めるという決断は、戦略的な選択でもあります。
組織や環境が自分の健康・キャリア・尊厳を守ってくれないと感じたら、離れることは正当な対応です。むしろ、限界を超える前に離れる力こそ自己保全能力とも言えます。

Q2. 「1人のせいでみんな辞める」場合、会社や本人に法的責任はありますか?

原則として“法的責任”は非常に限定的です。
たとえ複数人が“1人のせいで辞めた”としても、その言動が明確なハラスメントや違法行為に該当しない限り、企業に損害賠償義務などが認められるケースは稀です。

ただし、ハラスメントがエスカレートしていた場合や、業務に重大な支障が出ていた場合には、会社側の“職場環境配慮義務違反”が問われる可能性もあります。
迷ったら、社内の相談窓口や外部の労働相談窓口に早めに相談しましょう。

Q3. 異動や部署替えでは解決できないのでしょうか?

ケースによりますが、“一時的な回避策”としては効果的なこともあります。
実際、人間関係起因のストレスは“物理的距離”によってかなり緩和されるため、部署異動や在宅勤務の導入などは意味のある対処法です。

ただし、会社の文化や評価制度が本質的に“問題のある人を優遇しがち”な体質であれば、部署を変えても同じようなことが起きる可能性があります。
異動後のサポート体制や制度の柔軟性を確認した上で判断するのが良いでしょう。

Q4. 上司に相談しても「そういう人だから」と流されました。どうすれば?

その時点で、今の上司には“介入する気がない”と見なしてよいです。
この場合は以下のような順で行動するのが望ましいです。

  1. 別の信頼できる上司や同僚に相談(感情ではなく事実ベースで)
  2. 社内の人事・ハラスメント窓口に記録付きで相談
  3. 社外(労働局/ユニオン/専門家)への相談も視野に

そして最終的には、「改善がなされない組織」自体に問題があると割り切り、転職・退職を含めた選択を考えることも必要です。

Q5. 「自分にも問題があるのかも…」と感じてしまいます。どうしたらいいですか?

そう感じるあなたは、非常に“感受性が高く、責任感のある人”です。
しかし、「自分が悪い」と感じてしまう人ほど、構造的な問題や他人の影響を“自責で吸収”してしまう傾向にあります。

Edmondson(1999)も示したように、心理的安全性がない環境では、人は声を出せなくなり、自責に偏りがちになります。
このような状況では、まず以下を意識してください。

  • “誰も悪くない”ではなく、“構造の問題かもしれない”と疑う
  • 「あなたの感じ方」自体が異常ではない。他の人も感じている可能性がある
  • あなたの責任ではない問題まで背負う必要はない

そして、第三者(友人・専門家・キャリア相談員など)と話すことで、視点を戻すことができます。
自責にハマる前に、外からの目線で“あなたの感じ方”を確認する習慣を持ちましょう。

ポイント

  • 「辞める=逃げ」ではない。合理的な離脱も選択肢のひとつ。
  • 組織が“動かない”のは、仕組みや評価軸の限界の表れ。
  • 自責に陥る前に、構造と他者視点から自分を守る意識が大切。

8. まとめ

「1人のせいでみんな辞める」職場には、心理・組織・構造の連鎖があり、感情論ではなく冷静な理解と判断が求められます。

「1人のせいでみんな辞める」は、実際に起こる現象である

本記事を通して明らかになったのは、「1人のせいでみんな辞める」という出来事は決して偶然ではなく、社会心理学や組織論の中でも実証されている現象であるということです。

Felpsら(2006)の“バッドアップル理論”によれば、1人の否定的なメンバーがいるだけで、集団の規範や空気が崩壊し、離職が連鎖的に起きることがわかっています。

また、Porath & Pearson(2013)の研究では、たとえ直接攻撃されていなくても、ネガティブな言動を“見ているだけ”で人は疲弊し、燃え尽きて辞めていくというデータも示されています。

組織が“その1人”を放置する理由は、個人ではなく構造の問題

「なぜ上司は注意しないのか?」「なぜ人事が動かないのか?」という疑問の背後には、職場全体の構造的な“動けなさ”が潜んでいました。

  • 成果主義が空気の悪化を見逃す
  • 問題を“感情論”として処理する
  • 匿名性や制度の限界により、通報が機能しない

これらの背景が重なることで、「問題は明白でも誰も止められない」という職場が生まれてしまいます。

最終的に守るべきは、自分の健康と尊厳である

心理的安全性を重視したEdmondson(1999)の研究は、発言できない/相談できない/変化できない職場の中では、人は静かに壊れていくことを警告しています。

耐え続けて燃え尽きる前に、自分のメンタルの状態に気づき、正しい順序で“辞めるかどうか”を判断する視点が必要です。

  • 感情だけで辞める必要はない
  • ただし、「まだ大丈夫」が続くと回復に時間がかかる
  • 構造や空気は、1人の力では変えにくい

これらを冷静に見極めるために、転職や異動だけでなく、情報収集・他者相談・視点の切り替えが大切になります。

あなたが辞めたことで、状況が変わることもある

「自分だけ逃げたくない」と思ってしまう気持ちは、誠実な人ほど強くなります。
しかし、あなたが辞めたことで、「あの人の言動に原因がある」と周囲が気づくケースもあるのです。

辞めるという選択は、あなたにとっての“敗北”ではなく、職場にとっての“警鐘”にもなり得ます。

ポイント

  • 「1人のせいでみんな辞める」現象は、構造的・再現的に起こり得る。
  • 辞めるか耐えるかは、心身と構造の“見極め”に基づくべき。
  • あなたの違和感は正しい。その感覚こそ、最大の防衛手段。

参考文献

Felps, W., Mitchell, T. R., & Byington, E. (2006). How, when, and why bad apples spoil the barrel: Negative group members and dysfunctional groups. Research in Organizational Behavior, 27, 175–222. https://doi.org/10.1016/S0191-3085(06)27005-9
〈参考文献:「1人のネガティブなメンバー」がグループ規範や協働にどう影響し、最終的に集団の崩壊や離職を引き起こすかを、理論と実証の両面から分析。マネジメントの怠慢や介入の失敗が、崩壊の引き金になることも指摘〉

Porath, C. L., & Pearson, C. M. (2013). The price of incivility. Harvard Business Review. https://hbr.org/2013/01/the-price-of-incivility
〈参考文献:職場における無礼な態度や攻撃的言動が、個人およびチームの生産性・創造性・協力意識に深刻な悪影響を与えることを示す。特に「加害者が1人でも、全体に広がる心理的・身体的ストレス」や「観察者も辞めたくなる現象」が定量的に確認された〉

Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. https://doi.org/10.2307/2666999
〈参考文献:心理的安全性が、チームにおける率直な意見交換・学習行動・エラー共有を可能にし、結果として高いパフォーマンスや離職率の低下に寄与することを明示。一方で、1人の圧力・否定的発言でこの安全性が崩れるリスクにも言及〉

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