言葉は日々使っていく中で、何気ない誤解や思い込みによって誤用されることがあります。「わかりづらい」と「わかりずらい」も、まさにそんな日本語表現のひとつです。ふとしたときに「どっちが正しいんだっけ?」と迷った経験はありませんか?SNSやチャット、ビジネスメールでもよく目にするこの表現ですが、正しい使い方を知らずに使っていると、思わぬ誤解を招いたり、文章全体の信頼性に影響したりすることもあります。
本記事では、言語学的な観点を交えながら、「わかりづらい」と「わかりずらい」のどちらが正しいのかを丁寧に解説していきます。辞書や文法の根拠だけでなく、なぜ誤用されやすいのか、なぜ人は混同してしまうのかという背景も掘り下げ、単なる「正解探し」にとどまらず、読者が納得して使い分けられるようになることを目指します。
また、似たように間違いやすい「ず」と「づ」の使い分けや、「わかりにくい」と「わかりづらい」のニュアンスの違い、さらにはビジネス文書での表現力アップに役立つチェックポイントまで幅広くカバー。文章力を向上させたい方や、誰かに伝わる言葉を選びたいと考えている方にとっても、学びの多い内容になるはずです。
「なんとなく」で書いてしまっていたその表現、今日でしっかり整理してみませんか?ここでしっかりと理解しておけば、今後の文章作成にもきっと自信が持てるはずです。
1. 「わかりづらい」と「わかりずらい」—正しいのは?
文章を書いているときや話し言葉で、ふと「わかりづらい」と「わかりずらい」のどちらを使うべきか悩んだ経験はないでしょうか。この混同は非常に多く、検索エンジンでも両方の言葉が大量にヒットします。けれども、正しい表記にははっきりとした基準があります。本章では、その違いと理由を言語的な根拠を交えて解説していきます。
1-1. まず結論:正しいのは「わかりづらい」
まず明確にしておきたいのは、「わかりづらい」が正しい表記です。これは文部科学省や国語辞典の表記においても一貫して支持されており、正式な日本語として認知されています。
「わかりづらい」は、「わかる」に接尾語の「づらい」がついた形です。この「づらい」は「~しにくい」「~が困難である」といった意味を持ち、例えば「言いづらい」「歩きづらい」なども同様の構造をしています。
一方で、「わかりずらい」は国語辞典には存在せず、公式な文法上は誤った表記です。普段の会話のなかで通じてしまう場合もありますが、特にビジネス文書や公的な場面では避けるべき表現です。
1-2. 「づらい」は接尾語、「ずらい」は存在しない
ここで少し文法的な視点から整理してみましょう。「づらい」は動詞の連用形に接続して、「その動作が困難であること」を意味する接尾語です。語源は「辛い(つらい)」とされており、もともと「~しづらい=~するのがつらい」という感覚から派生しています。
たとえば以下のような例がよく使われます。
動詞 | 接尾語 | 意味 |
---|---|---|
話す | 話しづらい | 話すのが難しい、抵抗がある |
説明する | 説明しづらい | 説明しにくい、伝えにくい |
動く | 動きづらい | 動きにくい |
対して、「ずらい」という接尾語は日本語には存在しません。つまり、文法的にも語彙的にも「わかりずらい」は成立しない語句です。
この点を踏まえても、「わかりづらい」が正しいという結論は揺るぎません。
1-3. なぜ「わかりずらい」と書いてしまうのか?
「ず」と「づ」は日本語において発音が同じ(いわゆる無声化される音)であるため、音だけを頼りにして文字を起こすと、どちらの表記が正しいか迷うことがあります。
これは特にスマートフォンやパソコンでの変換入力に依存しているときに起きやすく、「わかりずらい」と入力しても、最近では予測変換で「わかりづらい」が出ることも多いですが、誤った候補が上位に表示されるアプリもあるため、そのまま採用してしまうケースが見られます。
また、SNSやブログなど非公式な文章環境では、誤用表記が訂正されにくいことも影響しています。「誰でも見られる情報源で使われているから正しい」と誤解してしまい、知らず知らずのうちに定着してしまうこともあるのです。
1-4. 発音の混同が引き起こす表記ミス
「ず」と「づ」は、日本語教育においても「同音異表記」として扱われる難しい領域です。特に、濁音に関しては地域差や世代差もあり、実際の発音が同じであっても、書き言葉としての正しさは明確に区別されています。
この混同を避けるためには、音だけで判断せず、文法的な構造や辞書に基づいた知識を身につけることが重要です。言い換えれば、「聞こえたとおりに書く」だけでは正しい日本語にならない場面があるということです。
また、学校教育でもこの区別は重点的に扱われることがありますが、日常的なトレーニングを欠くと、うっかり誤用してしまうのがこの「づ」と「ず」の問題です。
ポイント
「づらい」は文法的に正しい接尾語で、「ずらい」は誤用。音で混同しやすいため、辞書や文法知識に基づく判断が大切です。迷ったときは「~しにくい」と言い換えてみるのも手。言い換えられれば「づらい」、言い換えに違和感があるなら使い方を見直すサインになります。
2. 「わかりづらい」の意味と正しい使い方
「わかりづらい」が正しい表記であることは理解できても、いざ自分で使おうとすると、「これで合ってるかな?」と不安になる場面は少なくありません。また、「わかりにくい」との違いが気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは、「わかりづらい」という表現の意味を掘り下げつつ、適切な使い方や他の表現との違いについて詳しく見ていきます。
2-1. 「~づらい」の用法と語源(「辛い」との関係)
「づらい」という言葉は、動詞の連用形に接続し、「~しにくい」という意味を作る接尾語です。語源は「辛い(つらい)」で、「~するのがつらい」「苦痛を伴う」といった意味合いが元になっています。
たとえば、「聞きづらい」「話しづらい」「頼みづらい」など、相手との関係や状況によって精神的な負担や抵抗がある場合に使われることが多い表現です。
つまり、「わかりづらい」というのは、単に「理解できない」ではなく、「理解しにくい、スッと頭に入りにくい」「内容が複雑または伝わり方があいまいで、捉えづらい」といったニュアンスを持っています。
2-2. 「わかりづらい」の例文と場面別の使い方
では、実際にどのような文脈で「わかりづらい」を使うのが自然なのでしょうか。以下の例をご覧ください。
- このマニュアルは専門用語が多くてわかりづらい。
- 彼の説明は声が小さくてわかりづらいな。
- プレゼンの資料がごちゃごちゃしていてわかりづらいです。
このように、「わかりづらい」は主に以下のような状況で使われます。
- 情報が過剰・不足している
- 説明が不明確、または前提知識が足りない
- 視覚的に整理されていない
- 発言が聞き取りにくい、もしくは曖昧
つまり、単なる「わからない」ではなく、「構造的または表現上の理由で理解が難しい」ことを指す言葉だということがわかります。
2-3. 「わかりにくい」とはどう違う?ニュアンス比較
「わかりづらい」とよく似た言葉に「わかりにくい」があります。どちらも「理解するのが難しい」という意味で使われますが、実際には微妙なニュアンスの差があります。
表現 | ニュアンス |
---|---|
わかりにくい | 客観的・一般的に理解が困難(情報の性質による) |
わかりづらい | 主観的・心理的な障壁がある(感覚・関係性による) |
たとえば、難解な数学の公式は誰にとってもわかりにくいですが、ある人の説明が早口すぎて理解できないと感じるときはわかりづらいと表現する方が自然です。
また、「わかりにくい」は情報自体の性質に問題がある場合に使われやすく、「わかりづらい」は伝え方や受け手の状況に焦点が当たる表現です。
2-4. 口語・書き言葉での適切な使い分けとは
ビジネスメールやプレゼン資料、あるいは教育の場面など、表現の正確さが求められる状況では、微妙な言葉の選び方が重要になります。
たとえば、会話の中では「この資料、ちょっとわかりづらいですね」と柔らかく伝えることで、相手を責めることなく改善点を共有することができます。
一方で、正式な報告書や調査レポートなどでは、「この資料は専門用語が多く、読者にとってわかりにくい可能性がある」と表現するほうが、客観性を保った記述になります。
このように、相手との距離感や目的に応じて「わかりにくい」「わかりづらい」を使い分けることで、文章に含まれるニュアンスを調整しやすくなります。
ポイント
「わかりづらい」は、単なる知識不足ではなく、伝え方や構成に問題があるときに使うのが自然な表現です。一方、「わかりにくい」は情報の性質や内容の複雑さに焦点を当てた語。文脈に応じて選び分けることで、伝えたい意図をより的確に表現できます。
3. 「わかりずらい」はなぜ広まった?誤用の背景を探る
「わかりずらい」は本来誤った表記ですが、インターネットや日常会話では意外と多く目にする表現でもあります。では、なぜこのような表現が広がってしまったのでしょうか。その背景には、音声的な混乱、入力システムの影響、教育の盲点など、いくつもの要因が複雑に絡み合っています。ここでは、その誤用が広がった背景と、私たちがどう対応すべきかを紐解いていきます。
3-1. SNS・ブログ・動画での誤記の実態
誤用の拡大に大きな影響を与えているのが、SNSやブログ、動画配信といった「気軽に言葉を発信できる場」の存在です。TwitterやInstagramでは、文章を一瞬で書いて投稿するため、表記よりもスピードやテンポが重視されます。YouTubeなどでは、字幕が自動生成されるケースも多く、音声と文字の区別がつきにくいまま「わかりずらい」が表記として残ってしまうこともあります。
加えて、インフルエンサーや人気配信者が「わかりずらい」を多用しているのを見て、「あれ?これでいいんだ」と思い込んでしまうユーザーも少なくありません。影響力のある人物が使っていれば、無意識のうちにそれを正しい表現として受け入れてしまうこともあるのです。
3-2. 「ず」と「づ」の分かりにくさはなぜ起きる?
日本語において「ず」と「づ」の発音は、ほとんどの方にとって聞き分けが困難です。いずれも「有声音」の濁音に分類され、地域差や世代差はあるものの、現代の共通語ではほぼ同一に発音されています。これは「音韻的中和(おんいんてきちゅうわ)」と呼ばれる現象で、言語学的には音の区別がなくなっている状態です。
そのため、音だけを頼りにした言葉の記憶では、「ず」と「づ」の違いは判断しにくく、「わかりづらい」と「わかりずらい」を区別するには文字や文法の知識が必要になります。
つまり、音が同じであれば、正しく学習していない限り間違えるのはごく自然なことでもあるのです。
3-3. 校正者・言語学者が語る「わかりずらい」への対応
文章の正確さが求められる出版や報道、教育の現場では、「わかりずらい」は当然のように誤記とされ、校正段階で修正されるのが一般的です。プロの校正者や言語教育者の間では、「聞き分けられないからこそ、表記は厳密にすべき」という考えが主流です。
一方で、言語学の観点からは、「表記の揺れ」そのものを否定せず、言葉が変化するプロセスとして捉える姿勢も見られます。たとえば、昔は「しづか」が正しかった時代もあり、現在は「しずか」に統一されています。つまり、表記の揺れは日本語の歴史において常に起きてきた現象でもあるのです。
とはいえ、「わかりずらい」が正式に認められるには、辞書や教育現場での浸透、文法的な裏付けなどが必要です。現時点では誤用であることは揺るがず、公式な文書やビジネスで使うのは避けるべきでしょう。
3-4. ITや教育現場での現状と対策
近年では、WordやGoogle Docsなどの入力補助機能、また校正支援アプリが「わかりずらい」に赤線を引き、「もしかして:わかりづらい」と提案するようになっています。こうしたツールを活用することで、ミスを減らすことは可能です。
しかし一方で、学校教育の現場では「ず」と「づ」の違いにそれほど多くの時間が割かれていない現状があります。生徒にとっては発音の違いが感じにくい上、文章を書く頻度も以前に比べて少なくなっているため、「表記の正しさ」への意識が育ちにくいという課題も見えています。
このような背景から、「わかりずらい」は一度誤用として定着してしまうと、日常的に修正される機会が少なくなってしまうのです。
ポイント
「わかりずらい」は音と文字の一致しにくさ、気軽な発信環境、教育・校正の盲点が重なって広まった表記です。言語の変化として理解しつつも、現時点では誤用であることを意識し、場面に応じて正しい「わかりづらい」を使うことが大切です。
4. 間違いやすい「ず・づ」の言葉一覧とチェック方法
「わかりづらい」と「わかりずらい」の混同は、単独のミスではなく、日本語における「ず」と「づ」の使い分けがそもそも難しいことに起因しています。この章では、「わかりずらい」以外にも間違いやすい「ず」「づ」を含む単語を取り上げ、どのようなポイントに注意すれば誤用を防げるのかを具体的に紹介します。正確な日本語を身につけるには、こうしたよくある表記ミスを体系的に知ることが近道です。
4-1. 「つづく/つずく」「しづか/しずか」などの例
「ず・づ」の混乱が起きやすい単語は数多く存在します。以下に代表的な例を挙げてみましょう。
正しい表記 | 誤りやすい表記 | 備考・意味 |
---|---|---|
つづく | つずく | 動詞「続く」の送り仮名 |
しずか | しづか | 「づ」は使わない(静か) |
きづく | きずく | 「気付く」は「づ」が正しい |
みつづける | みつずける | 複合語でも「づ」が残る |
こづかい | こずかい | 「小遣い」のひらがな表記 |
わかりづらい | わかりずらい | 本記事のテーマ |
これらはどれも、「音」は同じでも「正しい表記」は決まっており、使い分けが求められます。特に、誤表記が日常的に使われていたり、正誤の基準を学ぶ機会が少なかったりすると、無意識に間違って覚えてしまうこともあるため注意が必要です。
4-2. 変換ミスが起きやすいパターンとは
現代では、スマートフォンやパソコンの日本語変換システムが表記ミスを助長してしまうケースもあります。特に以下のような条件では注意が必要です。
- 口語入力で「づ」と「ず」を発音で区別しないまま音声入力
- ローマ字入力で「zu」と「du」の使い分けを意識していない
(例:duで「づ」が出るが、zuだと「ず」になる) - 古いIME(日本語入力システム)を使っていると誤候補が表示される
- 頻度の高い誤用が学習され、誤表記が優先候補になる
たとえば、「わかりずらい」とタイプした際に、それが過去に何度も使われていれば、変換候補の1番目に表示されてしまうことも。習慣的に選んでいると、正しい表記を自分で見極める力が鈍っていくことにもつながります。
4-3. 文書チェック時に役立つツールとポイント
表記の誤りを防ぐには、文章をチェックする習慣と、それを支えるツールの活用が大切です。以下のようなツールや機能は非常に有効です。
- Microsoft Word の「スペルチェック」機能
→「わかりずらい」を赤線で指摘 - Google ドキュメント の文法チェック
→変換ミスや表記揺れを自動検知 - 日本語校正支援ツール(Just Right!、文賢など)
→文脈に応じて適切な表現かを評価してくれる
文書全体の見直しを行う際は、以下の観点を持つとより精度が上がります。
- 同音異表記の言葉に敏感になる(例:「しずか」ではなく「しづか」など)
- 1文1文の中で不自然な言葉は辞書で確認する
- 読み返すときには音読して「変な語感」に気づく
4-4. 読みやすく、誤解のない文章に仕上げるには
表記の誤りは、文章全体の印象に大きな影響を与えます。たとえ意味は通じていたとしても、「わかりずらい」のような誤記があると、読み手に「この人は雑だな」「信頼できる情報かな?」という疑問を抱かせてしまうリスクがあります。
そこで意識したいのが、読みやすく誤解のない文章を目指す姿勢です。特に以下の点を心がけるとよいでしょう。
- 文章を書いたら必ず時間をおいて見直す
- 文法的に気になる部分は一度辞書で調べる
- 公的な文書や目上の人への文章では特に丁寧なチェックを行う
ポイント
「ず」と「づ」の使い分けには、音だけでなく文法の理解が不可欠です。誤用されやすい単語のリストを頭に入れ、変換候補を鵜呑みにせず、文脈で判断する目を養いましょう。少しの意識が、読み手からの信頼を大きく高めてくれます。
5. 正しい日本語を使うメリットと意識の持ち方
「わかりづらい」と「わかりずらい」のような、細かな表記の違いにこだわることは、堅苦しいと思われるかもしれません。しかし、言葉は「思考のかたち」であり、また「人となり」を表す大切な道具でもあります。小さな言葉の誤りが、時に大きな誤解を招いたり、信用を損ねたりすることがあるのです。
この章では、「わかりづらい」をはじめとした正しい日本語を使うことの意味と、それを日常の中でどう意識していくべきかを考えてみます。
5-1. 誤用がもたらす印象と信頼性への影響
たとえ伝わるとしても、誤った言葉づかいが混じっているだけで、文章全体が「雑に感じられる」「説得力が薄く感じる」といった印象を与えることがあります。
たとえば、以下のような場面ではどうでしょうか。
- 履歴書や職務経歴書で「わかりずらい」と書いていた場合
→「細部への注意が足りない人」「日本語に弱い人」という印象を与える可能性があります。 - 企業のWebサイトに誤表記があった場合
→信頼性に疑問を抱かれ、サービスや商品の品質にまで不安を持たれてしまうかもしれません。 - ビジネスメールで上司や取引先に誤った表記を送った場合
→言葉に対する感度の高い相手ほど、表現ミスには敏感です。
もちろん、誰でも完璧ではありません。しかし、細かな言葉の使い方まできちんと気を配っている人は、文章からも誠実さや信頼感が自然に伝わるものです。
5-2. 就活・ビジネス・教育現場で求められる表記力
近年、就職活動やキャリア形成の現場では「言葉の使い方」が一層重視される傾向があります。これは単なる国語力の問題ではなく、「コミュニケーション能力」そのものを測る指標として見られているからです。
教育の現場においても、教師や講師が誤った日本語を使ってしまうと、生徒に間違った知識が伝わってしまいます。ビジネスにおいても、社内文書や報告書での表記が正確であるかどうかは、組織全体の信頼性に関わる大きな要素です。
このように、正しい言葉づかいは自分一人の問題にとどまらず、周囲との関係や場の信用にまで影響を及ぼします。
5-3. 「伝わればいい」は通用しない?正確さの価値
インターネットやSNSの普及によって、「伝わればOK」という風潮が強まってきた時代でもあります。確かに、私的なコミュニケーションでは、それもひとつの合理的な考え方かもしれません。
しかし、誤った表現が当たり前のように流通することで、「どの言葉が正しいのか」がますますわかりづらくなるという弊害もあります。また、文章が他人の目に触れる機会が増えているからこそ、発信者としての責任が問われる場面も少なくありません。
とくに検索エンジンやSNSでは、文章ひとつでその人の印象が大きく決まってしまうこともあります。正しい日本語を選び取ることは、情報の信頼性を保つための最低限のマナーとも言えるでしょう。
5-4. 今後の表記選びのためにできること
では、どうすれば誤用を避け、正しい言葉選びができるようになるのでしょうか。実は、難しいことは必要ありません。基本は「迷ったら調べる」「気づいたら直す」——この2つに尽きます。
- 辞書や公的な日本語サイトを活用する
→例:「文化庁」「NHK放送文化研究所」などは非常に信頼性が高い情報源です。 - 文章を書く際に自動校正ツールを併用する
→Word、Google Docs、文賢、Just Right! などの活用が効果的です。 - 書いた後に読み返す癖をつける
→推敲することで、自分の癖や思い込みに気づけるようになります。
こうした小さな積み重ねを習慣にしていくことで、文章の質は自然と高まり、表記に対する感度も磨かれていきます。
ポイント
正しい日本語を使うことは、ただ「正解を選ぶ」ことではありません。それは相手への敬意であり、自分の思考を丁寧に表現する手段でもあります。細部にこだわることが、あなたの伝える力を何倍にも高めてくれるのです。
6. 他にもある?混同されがちな表現たち
「わかりづらい」と「わかりずらい」のように、間違って使われがちな表現は、実は私たちの周りにたくさんあります。これらの誤用は、音が似ていることや漢字の意味が紛らわしいことが原因で起こりやすく、気づかないうちに習慣化してしまうこともあります。
ここでは、同様に混同されがちな言葉や表現を取り上げ、その正しい意味や使い分けを見ていきましょう。正しく理解しておくことで、表現の幅が広がるだけでなく、文章の説得力や信頼感も格段に高まります。
6-1. 「いづれ/いずれ」「つづく/つずく」など
もっとも多い誤用のパターンが、「ず」と「づ」の混乱によるものです。以下の表に、よくある混同例と正しい表記をまとめました。
誤用されがち | 正しい表記 | 補足説明 |
---|---|---|
いづれ | いずれ | 「いずれ(何れ)」が正しい表記 |
つずく | つづく | 「続く」は「つづく」と表記 |
しづか | しずか | 「静か」は「しずか」と表す |
きずく | きづく | 「気付く」の場合は「きづく」 |
みずらい | みづらい | 誤用例:「見づらい」が正 |
これらはすべて音声的にはほとんど同じに聞こえるため、耳で覚えてしまうと間違いやすい単語です。特に「づ」が正しいケースは、ローマ字入力だと「du」と打たなければ変換できない場合があり、結果として誤った「ず」が使われることがあります。
6-2. 「確立」と「確率」、「意志」と「意思」の違い
日本語には、音は同じでも意味がまったく異なる漢字語も数多く存在します。こうした語を使い間違えると、読み手の理解を大きく誤らせてしまうことがあります。
以下に、混同しやすい例を紹介します。
表現 | 意味(簡略) |
---|---|
確立(かくりつ) | 物事の仕組み・制度がしっかり定まること |
確率(かくりつ) | ある事象が起きる割合や可能性のこと |
意志(いし) | 自分の意図・強い思い |
意思(いし) | 意図・考えの内容(比較的広く使う) |
間違い/過ち | 行為の結果に対する違い(主観/客観) |
たとえば「このプロセスの確率を高めたい」というと、読者は「成功の可能性を高める」という意味で理解するかもしれませんが、「確立」を使いたかったのなら、「仕組みを固めたい」という全く別の意味になってしまいます。
同じ読みでも漢字の選び方で意味が大きく変わることを意識すると、文章の正確さがぐっと高まります。
6-3. 日本語の“表記ゆれ”と向き合う姿勢
表記ゆれとは、同じ意味・同じ言葉を異なる形で書いてしまう現象のことです。たとえば、「わかりづらい」と「分かりづらい」など、漢字とひらがなの混在が典型例です。
この表記ゆれは読み手の集中力を削ぎ、文章の統一感を損ねてしまいます。特にWebライティングや報告書、論文などでは、統一ルールを設けておくことが非常に大切です。
- 表記の統一ルールをあらかじめ決める(例:「わかる」はひらがなで書く)
- 校正ツールを使って表記の揺れをチェック
- 同じ言葉を複数回使う際にはすべて見直す癖をつける
文章を書く目的が「伝える」ことにある以上、こうした配慮は不可欠です。
6-4. 一緒に見直したい文章表現のコツ
間違いやすい語だけでなく、伝わりやすい日本語を選ぶための習慣も大切です。以下のような視点で日常の言葉づかいを見直してみましょう。
- 抽象語より具体語を使う:「内容がわかりづらい」→「構成が複雑で理解に時間がかかる」
- 一文を短くする:「〜ですが、しかし、そして…」と続く長文を避ける
- 言い換え力を養う:「わかりづらい」→「要点がぼやけている」「説明が不足している」
また、辞書や文例集に触れることも、自然で適切な言葉選びのトレーニングになります。良質な文章に日常的に触れることが、結果的に誤用を防ぐ最良の方法でもあるのです。
ポイント
「わかりずらい」のような誤用は、氷山の一角にすぎません。日常的に出会う“表記の迷い”に敏感になり、言葉の背景や意味を深く理解することで、伝わる文章力を育てることができます。些細な違いを大切にできる人ほど、読み手の心を動かす言葉を紡げるのです。
7. Q&A:よくある質問
「わかりづらい」と「わかりずらい」の違いについて調べ始めると、他にもさまざまな疑問が浮かんでくるものです。ここでは、多くの読者が実際に抱きがちな質問を取り上げ、正確かつ丁寧にお答えしていきます。ちょっとした表記の迷いをスッキリ解消しておきましょう。
7-1. 「わかりずらい」は辞書に載っていないの?
回答:
はい、「わかりずらい」は主要な国語辞典には掲載されていません。
たとえば『広辞苑』や『大辞林』『明鏡国語辞典』などの信頼性の高い辞書で検索しても、「わかりずらい」は誤表記として扱われており、正規の語彙ではないことが明記されています。
一方、「わかりづらい」は「わかる+づらい」の正しい構造として、正式に掲載されています。したがって、辞書ベースで確認する限り、「わかりづらい」だけが正しい表現です。
7-2. 漢字で書くとどうなる?「分かりづらい」もアリ?
回答:
「わかりづらい」を漢字で表記すると「分かりづらい」になります。こちらも一般的に使われる正しい表記です。
ただし、漢字とひらがなをどう使い分けるかは文体や読みやすさによって変わります。たとえば、以下のような基準で使い分けるのが一般的です。
- やさしい印象・読みやすさを重視する場面 →「わかりづらい」(ひらがな)
- 公的・硬めの文書や文章全体が漢字多め →「分かりづらい」
読み手の年齢層や目的に応じて表記を選びましょう。どちらも正しいですが、文書内で統一して使用することが大切です。
7-3. 学校ではどちらを教えているの?
回答:
学校教育では、基本的に「わかりづらい」が正しい表記として教えられています。
国語の教科書や文法参考書においても、「~しにくい」の表現として「~づらい」が取り上げられており、「~ずらい」という形は登場しません。
ただし、低学年ではまだ「ず」と「づ」の違いを完全に理解しづらいこともあり、厳密な使い分けが指導されるのは中学以降、特に文法学習が始まる段階です。
そのため、子どものうちに音から覚えてしまい、あとで誤用が定着してしまうこともあります。大人になってからでも、意識して正しい形を覚え直すことは十分に可能です。
7-4. 誤用してしまった文章は修正すべき?
回答:
用途によりますが、公的文書やビジネス文書の場合は修正するのが望ましいです。
なぜなら、受け手がその表記を誤用と認識している場合、「正確な言葉が使えない人」という印象を与えてしまいかねないからです。
一方で、SNSや個人のブログなど、カジュアルな場で使ったものであれば、必ずしも訂正が必要とは限りません。ただし、より信頼性のある情報発信を目指すなら、やはり正しい表現を心がけることが好ましいでしょう。
文書が他人の目に触れる以上、表記は“自分の印象を代弁するもの”と考えておくと、自然と意識が高まります。
7-5. WordやGoogle Docsでの自動変換は信頼できる?
回答:
ある程度は頼れますが、完全に鵜呑みにするのは危険です。
たとえばMicrosoft Wordでは、「わかりずらい」と入力すると自動的に赤い波線が表示され、校正候補として「わかりづらい」が提案されます。これは非常に便利な機能です。
しかし、Google Docsなど一部のツールでは、文脈や単語の意味までは十分に判別できず、誤表記を見逃すケースもあります。また、IME(日本語入力システム)が誤った候補を学習してしまい、誤用の方が先に変換されることも。
そのため、最終的には人間の目と知識による確認が欠かせません。特に重要な文書では、変換任せにせず、自分の言葉で見直すことが必要です。
ポイント
ちょっとした言葉の違いが、実は多くの場面で影響を与えることがあります。辞書や学校の教え、入力ツールなどを正しく活用しつつ、自分自身の言語感覚を鍛えていくことが、誤用を減らし、より信頼される文章を書く第一歩です。
8. まとめ
「わかりづらい」と「わかりずらい」、このわずかな違いに注目するだけで、私たちが普段どれほど音や感覚に頼って言葉を使っているかが見えてきます。ここまでの記事で触れてきたように、正しい表記は「わかりづらい」であり、「わかりずらい」は文法的にも辞書的にも誤用です。しかし、実際の言語環境では「誤用のまま広まってしまっている」状況も多く見られます。だからこそ、今改めてこの言葉の意味と使い方を確認することには大きな価値があります。
8-1. 「わかりづらい」と「わかりずらい」の本質的な違い
この2つの表記の差は、「づ」と「ず」という一文字の違いに過ぎません。しかし、その背景には文法構造の違いがあります。「わかりづらい」は、「わかる」+「づらい(接尾語)」という明確な語形成ルールに基づいた表現です。一方、「わかりずらい」は音の影響や変換ミスから生まれた非公式な表記であり、国語辞典などでも認められていません。
この違いを理解するには、単なる暗記ではなく、言葉の成り立ちや接尾語の性質を知ることが必要です。「づらい」は「〜するのがつらい、困難である」という意味を持ち、日常でも「言いづらい」「頼みづらい」といった言い回しで広く使われています。
このルールを知っていれば、他の表現でも誤用を防ぎやすくなります。
8-2. 正しい知識を持つことで広がる表現力
「どっちでも通じるからいいじゃないか」と考える人もいるかもしれません。確かに、口頭では「わかりずらい」と言っても、相手は内容を理解してくれるでしょう。けれど、文章になると話は別です。特にビジネスや教育、出版など「言葉が信用の土台になる」領域では、正しい表記が求められます。
言葉は、その人の考え方や丁寧さを映す鏡です。文章を読む相手は、その一言一言から「この人は信頼できるか」「配慮のある人か」などを無意識に判断しています。
だからこそ、「わかりづらい」のような細かな表記にもこだわる姿勢が、文章力全体を底上げするのです。そしてそれは、単に誤用を避けるためだけではありません。言葉の意味や構造に敏感になることで、「どう伝えるか」に対する意識そのものが深まり、読み手の心に届く表現が自然と身についていきます。
8-3. 迷ったときのチェックポイントと今後の意識
最後に、似たような表記で迷ったときに役立つ簡単な判断基準をいくつかご紹介します。
- 「〜づらい」は、「〜しにくい」と言い換えられるか?
例:「わかりづらい」→「わかりにくい」=OK、「わかりずらい」は言い換えが不自然。 - 辞書で確認する
「新しい言葉」や「話し言葉っぽい表現」ほど、まずは辞書で確認する習慣を。 - ツールを併用する
Word、Google Docs、文賢などの文章校正ツールを使って、ミスを減らす。 - 読み返す癖をつける
一晩おいてから見直すと、自分の癖や思い込みに気づきやすくなります。
そして何より、「自分の書いた言葉が、誰かにどう届くか」を意識すること。それが、正確で伝わりやすい文章を育てていくうえでの最大のポイントです。
「わかりづらい」と「わかりずらい」の違いは、ほんの小さな表記の差かもしれません。しかし、そこには「言葉を正しく使いたい」「きちんと伝えたい」という大切な意識が宿っています。読み終えた今、あなたの言葉選びはきっと、ひとつ深みを増しているはずです。
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