お問い合わせ

マインドセット

結婚はデメリットだらけ?結局独身の方が幸せなのか科学的に検証

「結婚すれば幸せになれる」「独身では孤独でかわいそう」——そんな価値観は、いまだに私たちの社会に根強く残っています。しかし今、検索エンジンには「結婚 デメリットだらけ」という不安や疑問を持った検索が増加しています。家庭を持つことが「当然」とされた時代は過ぎ去り、結婚そのものを疑問視する声が増えているのです。

では、本当に結婚は“デメリットだらけ”なのでしょうか?独身は本当に「不幸」なのでしょうか?あるいは、結婚しないという選択は、逃げでも妥協でもなく、むしろ合理的なライフスタイルなのかもしれません。

本記事では、国内外の最新の研究論文をもとに、結婚と独身の双方に潜むリスクと恩恵を科学的に読み解きます。心の豊かさ、経済的な安定、社会とのつながり、そして個人の自由——それぞれの視点から、あなた自身の「生き方」を再確認する材料を提供します。

特に、Bella M. DePaulo博士らの研究では、独身者は「不完全な存在」ではなく、むしろ自由と心理的豊かさを享受する存在であることが強調されています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。一方で、過去には「独身者は幸福度が低く、生産性も劣る」といった見解が主流だったことも事実です(Austrom, Baldwin, & Macy, 2009, https://doi.org/10.1111/J.1936-4490.1988.TB00491.X)。

この記事では、古いステレオタイプを脱し、「結婚ありき」でも「独身礼賛」でもない、現代における本質的な“幸せのかたち”を問い直していきます。多様な論点を通して、自分の人生をどうデザインするかを考える手がかりとなるでしょう。

この記事は以下のような人におすすめ!

  • 結婚に疑問や不安を感じている
  • 独身を選ぶことへの周囲の目が気になる
  • 科学的根拠にもとづいた判断をしたい
  • 「結婚=幸せ」の価値観を見直したい
  • 自分の人生を他人軸ではなく、自分軸で考えたい

 目次 CONTENTS

1. なぜ今「結婚 デメリットだらけ」と検索する人が増えているのか?

近年、「結婚はデメリットだらけ」といった結婚に対しネガティブなイメージを抱く人が急増しています。その背景には、単なる結婚観の変化以上に、社会構造や情報環境、そして人々の価値観の大きな変動が関係しています。この章では、なぜ多くの人が結婚に疑問を抱くようになったのか、その根本的な理由を紐解いていきます。

1-1. SNSで可視化される結婚生活のリアル

ひと昔前まで、結婚生活の実態は「家庭内のこと」として外からは見えづらいものでした。しかし、InstagramやX(旧Twitter)、YouTubeといったSNSの普及により、人々は他人の結婚生活の「リアル」を目の当たりにするようになりました。

「育児で寝る暇もない」「家事は全部私」「パートナーの無関心がつらい」といった投稿や動画は、表面的な幸せの裏側にある苦悩や孤独を赤裸々に描き出します。特に女性たちの間では、「結婚しても自由がない」「夫婦なのに会話がない」といった生の声が共感を呼び、「それなら独身のままのほうがマシでは?」と考える人も増加しています。

こうした情報がバズるのは、それが多くの人にとって“身近な現実”だからに他なりません。SNSが「結婚=幸せ」という神話を崩す要因になっているのです。

1-2. 独身の選択がもたらす新しい自由

もうひとつ大きな要因は、「結婚しない自由」が社会的に少しずつ認知されはじめていることです。独身であることは以前まで「結婚できない」「選ばれない」ことと同一視されがちでしたが、今では「意識的な選択」として独身を肯定する風潮が強まりつつあります。

社会学者Bella DePauloは、従来のカップル中心主義が独身者に不利なイメージを与えてきたと批判し、独身生活は心理的に豊かで、自律的で、人間関係の多様性に富む生き方であると主張しています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

この視点からすれば、結婚して「誰かと一緒にいる」ことだけが幸せではなく、自分の意思で自由な生活スタイルを選ぶことが、むしろ本質的な幸福感を生むのです。

また、フルタイムで働く女性の増加や、キャリア形成を重視する男性の間でも、「今のままで十分」と考える人が多くなってきました。従来の「結婚しないと一人前じゃない」という文化的圧力は、若年層を中心に確実に弱まってきているのです。

1-3. 時代背景:結婚はもはや前提ではない

国勢調査や厚生労働省のデータからも、結婚を前提とした生き方は減少傾向にあります。晩婚化・非婚化の流れは長期的なものとなり、現在では生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)が男性で約28%、女性でも約17%に達しています。

また、少子化や経済不安、住宅価格の高騰、働き方の多様化などが重なり、「結婚=人生の安定」という構図そのものが揺らいでいるのです。加えて、家族以外のコミュニティ(趣味仲間やオンラインサロンなど)とつながる手段も増え、「ひとりでいること=孤独」ではない社会へと変化しています。

さらに、『The Stability of Singlehood(Tessler, 2023)』では、独身は一時的な過渡期ではなく、むしろ安定した選択肢の一つとして成立する可能性が示唆されています(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

このように、価値観、情報環境、そして社会構造の変化が相まって、「結婚しない人生」への興味と検索ニーズが高まっているのです。

ポイント

  1. SNSの普及により、結婚生活の現実が可視化され、「理想と現実のギャップ」に気づく人が増加。
  2. 独身というライフスタイルが、心理的・社会的に肯定される時代に変化している。
  3. 時代背景として、結婚が前提でなくなり、安定した独身生活も選択肢として現実的に。
  4. 海外研究でも、独身は一過性ではなく、豊かで持続可能な生き方として再評価されている。

2. 結婚の現実:幸福と表裏一体のデメリットとは

多くの人が「いつかは結婚したい」と思う一方で、実際に結婚生活を経験した人からは「思っていたのと違った」「結婚ってこんなに大変なの?」という声が聞かれます。結婚には確かにメリットもありますが、同時に見過ごせないデメリットも存在します。ここでは、実生活で多くの人が直面する「結婚の影」にスポットを当て、科学的視点とともにその現実を明らかにします。

2-1. 経済的不均衡と相手依存のリスク

結婚すれば経済的に安定する、というのは一昔前の話です。現代の結婚生活では、むしろ経済的不均衡が大きなストレス要因となっています。特に共働き夫婦の間では、収入差によって家庭内の力関係が変わり、対等なパートナーシップが築きにくくなることもあります。

また、片方が仕事を辞めて専業主婦(または主夫)になると、収入の一元化が起こり、経済的な自立が失われるケースも珍しくありません。これは、離婚や死別などが起きた際に、経済的困窮を引き起こす大きなリスク要因になります。

米国の研究者Bella DePauloは、「結婚による経済的安定はしばしば誇張されており、むしろパートナー依存によってキャリアや収入面での選択肢が狭まる危険がある」と指摘しています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

2-2. 心理的負担と「自由の制限」

結婚は、精神的な安定をもたらすという一方で、心理的な負担や自由の制限も抱えやすくなります。たとえば「家族を支える役割を果たさなければならない」「パートナーの機嫌や都合に合わせる必要がある」といった義務感に追われ、自分自身の欲求や感情を抑圧してしまうケースもあります。

『Living “Single”』(Smock, 2013)は、結婚生活が「永遠」「安定」といった幻想のもとに成立していると批判し、独身者の方が自分の人生を柔軟にコントロールできると述べています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

さらに、共同生活を送るうえでの意思決定の多さ(住居、育児、親の介護、転勤など)は、自由な選択を妨げる要因にもなります。特に女性の場合、「結婚したら自分のキャリアを犠牲にするしかなかった」という声も少なくありません。

2-3. 結婚で生じやすい性役割の固定化

現代社会では男女平等が叫ばれて久しいものの、結婚生活においては依然として性別による役割分担が根強く残っているという現実があります。家事・育児の多くを女性が担い、男性は外で働くという暗黙の了解が残っている家庭も多く、特に子どもが生まれるとその傾向は一層強まります。

フェミニスト心理学の視点からは、「結婚制度そのものがジェンダー役割を強化する構造を持っている」との批判もあります(Reynolds & Wetherell, 2003, https://doi.org/10.1177/09593535030134014)。このような状況では、女性のキャリア継続やライフデザインの柔軟性は著しく制限されることになり、結果として「家庭を守るために自分を犠牲にする」という構図が再生産されてしまうのです。

さらに、こうした性役割の固定化は、夫婦間の不満やすれ違い、最悪の場合は離婚へとつながることも少なくありません。

ポイント

  1. 結婚は経済的な安定をもたらすとは限らず、収入格差や依存関係がストレスやリスクの要因となる。
  2. 結婚によって自己決定の自由が減り、心理的負担を抱えるケースも多い。
  3. 性別による役割分担が依然として根強く、特に女性はキャリアや時間を犠牲にしやすい傾向にある。
  4. 結婚制度そのものに、時代遅れのジェンダーバイアスが含まれているという指摘がある。

3. 科学が語る「独身でも幸せになれる理由」

「独身は寂しい」「結婚しないと将来が不安」──こうした声は今も社会のあちこちにあります。しかし、近年の研究によって、独身というライフスタイル自体が心理的・社会的に非常に充実したものでありうるということが、明確に示されるようになってきました。

この章では、「独身でも幸せになれる」とする科学的根拠を論文ベースで紹介しながら、従来の結婚至上主義に一石を投じていきます。

3-1. 論文が示す:独身の心理的ウェルビーイング

まず注目したいのが、Bella M. DePaulo博士による研究「Single and Flourishing」(DePaulo, 2023)。この論文は、カップル中心主義的な価値観に異議を唱え、「独身者は“欠けた存在”ではなく、自分の人生を能動的に創造できる存在である」と主張しています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

特に同研究では、自由、自律性、心理的な充足が独身者の大きな強みであり、これは結婚における「相手に合わせる必要がある生活」とは対照的であると述べられています。例えば、独身者は日々の行動やスケジュール、人間関係の取り方をすべて自分の裁量で決定できるため、「自己選択感」が高まり、精神的満足度が上がりやすいのです。

また、独身者は恋愛的なパートナーに限定されず、友情・家族・地域とのつながりなど、より広義の“親密さ”を育みやすいともされています。

3-2. 自由意思による生き方と人生満足度の相関

独身であることを“自ら選択した”場合、その満足度は格段に高くなるという傾向も多くの研究で示されています。

たとえば、『The Stability of Singlehood』(Tessler, 2023)は、従来の「独身=一時的な状態」とする二項対立的な見方を否定し、独身を自立した安定的な生き方と捉える理論的枠組みを提示しました(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

この研究は、独身者を「恋愛関係に開かれているか」「関心がないか」などの指標で分類し、多様な独身スタイルが存在することを明らかにしました。そのうえで、自己決定に基づいた独身生活を送っている人は、精神的な安定性が高く、人生の意味づけにも前向きな傾向があると結論づけています。

つまり、「結婚できないから独身でいる」のではなく、「自分の意志で独身を選んでいる」場合、それは主体的で充実したライフスタイルといえるのです。

3-3. 恋愛関係に依存しないつながりの豊かさ

「人は一人では生きられない」という言葉がありますが、ここで言う“つながり”は、果たして恋人や配偶者との関係に限定されるべきでしょうか?答えは否です。

DePaulo博士は著書や論文の中で、「独身者は“THE One(運命の人)”ではなく、“THE Ones(複数の大切な人々)”を大切にする」と述べています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。この考え方は、現代の社会環境ともマッチしています。

SNS、オンラインコミュニティ、趣味の場、サークル、職場など、多様な形で人との関係が築ける現代において、親密なつながりは恋愛に限定されません。むしろ、複数の人とバランスよく関係性を持てることで、精神的な安定性や自己肯定感が高まる傾向があります。

さらに、Eric Klinenbergの研究『Going Solo』では、「一人暮らしを選ぶ人々の多くは、実は社会的に極めてアクティブで、他者との交流も豊かである」と報告されています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

つまり、独身生活は孤独ではなく、自立とつながりのハイブリッドな状態ともいえるのです。

ポイント

  1. 独身者は、自由・自律・心理的豊かさを享受できるとする研究が複数存在する。
  2. 自己決定に基づいた独身生活は、人生満足度と強く相関している。
  3. 恋愛的なパートナー以外にも、友情・家族・地域との多様なつながりが精神的安定に寄与する。
  4. 独身は「寂しい状態」ではなく、「選べる豊かさを持った生き方」であるとする視点が、科学的にも支持されつつある。

4. 研究結果で見る「独身」と「既婚」どちらが幸せか?

「結婚した方が幸せ」という言説は長く一般的でしたが、それは本当に事実なのでしょうか。あるいは「独身のほうが気楽でいい」とする意見もありますが、これも単なる印象論に過ぎないのでしょうか。

この章では、複数の実証研究に基づいて、独身と既婚、どちらがより幸福であるかをメンタルヘルス、キャリア、そして離婚後の幸福度の観点から比較し、現代における本当の「幸せ」について考察していきます。

4-1. メンタルヘルス指標から比較する

まず取り上げたいのが、独身者と既婚者のメンタルヘルスの違いについての研究です。世間では「既婚者は精神的に安定している」といったイメージが流布していますが、研究は必ずしもそれを支持していません。

DePauloとKislevによる2023年の研究では、結婚したからといって必ずしもメンタルヘルスが改善されるわけではなく、独身者も既婚者と同等、あるいはそれ以上に精神的な健康を保てるとしています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

また、同研究では、結婚によって精神的な幸福感が持続的に向上することはほとんどなく、一時的な「ハネムーン効果」に留まると述べられています。

特に注目すべきは、離婚経験者や死別した人々の方が、既婚者よりもメンタルヘルスに悪影響を受けやすい傾向にあるという点です。つまり、「結婚を維持できるかどうか」まで含めて考えないと、幸福度の議論は成立しないのです。

4-2. キャリア形成における優位性は?

結婚がキャリアに与える影響についても、近年の研究ではさまざまな知見が出ています。かつては、既婚者の方が安定的な仕事に就き、昇進もしやすいという見方が主流でしたが、現代社会では独身者のほうがキャリアに対する自由度が高く、柔軟な働き方を選べるという利点が注目されています。

一方で、Douglas Austromらの古典的な調査(Austrom, Baldwin, & Macy, 2009)では、当時の独身労働者は既婚者に比べて仕事の満足度が低く、欠勤率も高いという結果が出ています(Austrom, Baldwin, & Macy, 2009, https://doi.org/10.1111/J.1936-4490.1988.TB00491.X)。

しかし、この研究には注意すべき点があります。1980年代の調査であること、独身者の社会的地位やライフスタイルがまだ十分に肯定されていなかった時代背景が影響している点です。現代ではテレワークや副業、フリーランスなどの柔軟な働き方が可能となり、独身であることがむしろキャリアの障害ではなく“武器”になっているケースも増えています。

4-3. 離婚経験者の幸福度はどう変化する?

結婚によって得られるはずの幸福感が、離婚によって大きく損なわれるリスクについても見逃せません。

複数の研究が示すところによれば、離婚は人生において最もストレスが大きい出来事の一つとされ、健康面・経済面・社会的ネットワークに深刻なダメージを与えることが分かっています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

さらに、結婚から離婚への移行過程で感じる孤立感や自己喪失感は、独身者が日常的に抱える孤独感よりもはるかに重いとされます。つまり、結婚生活の破綻は、「独身でいること」以上の心理的負荷を生み出しうるのです。

このことは、「結婚すれば安定する」という前提そのものを再考するきっかけになります。

ポイント

  1. 最新研究では、独身者と既婚者のメンタルヘルスに大きな差はなく、むしろ離婚経験者の方が悪影響を受けやすい傾向がある。
  2. 独身はキャリア形成において柔軟性と自由度を高める要因となっており、現代では優位に働くケースも増加。
  3. 結婚の破綻(離婚・死別)が精神的・社会的に大きなダメージを伴うことは見過ごせない現実。
  4. 「結婚=幸せ」「独身=不幸」という単純な構図は、科学的根拠に乏しい時代錯誤の価値観である。

5. 「独身は孤独で不幸」のイメージはどこから来たのか?

「結婚していない=孤独でかわいそう」というイメージは、あたかも社会的な常識のように語られてきました。しかし、それは本当に事実に基づいたものなのでしょうか?この章では、そうしたステレオタイプが形成された背景を、歴史的・文化的・社会心理学的な視点から掘り下げていきます。

5-1. 歴史的背景と文化的刷り込み

結婚制度は、何千年も前から家族・財産・血統の継承を目的とした社会装置として機能してきました。とくに農耕社会では、家族という単位での共同作業が必須であったため、結婚は「大人としての通過儀礼」「人間としての完成形」と位置づけられてきたのです。

こうした歴史的経緯から、結婚していない大人、特に女性は「不完全な存在」「売れ残り」といったネガティブなレッテルを貼られる傾向がありました。19〜20世紀の欧米でも、未婚女性は“old maid(オールドメイド)”という侮蔑的な呼び名で語られ、社会の周縁に追いやられていました。

Tuula Gordonの研究『Single Women: On the Margins?』では、独身女性が長年にわたり「男性に選ばれなかった者」として社会的に位置づけられてきたこと、そしてそれがいかに人工的で非現実的な分類であるかが論じられています(Gordon, 1994)。

このように、「独身=不幸」「孤独」というイメージは、制度的に作られてきた歴史的バイアスの産物であり、客観的な幸福度や満足度とは直接的な関係はないのです。

5-2. メディアが作る「結婚信仰」

テレビドラマ、映画、雑誌、そして近年ではSNSに至るまで、メディアは一貫して「結婚=ゴール」「恋愛=人生の中心」というメッセージを発信し続けてきました。

結婚式を華やかに演出する番組、子育てと家族愛を美談として描くCM、恋愛を中心に展開するストーリー……これらは無意識のうちに、「結婚することが幸せであり、独身でいることは寂しい」という価値観を植え付けます。

Jill ReynoldsとMargaret Wetherellによる論文『The Discursive Climate of Singleness』では、メディアによる“独身女性のネガティブな描写”がいかにアイデンティティの構築に影響を及ぼすかが論じられています(Reynolds & Wetherell, 2003, https://doi.org/10.1177/09593535030134014)。

この研究では、女性たちが「理想化された既婚像」と「否定される独身像」という二極的なレパートリーに挟まれながら、自分の人生をどう捉えるかに葛藤している様子が描かれています。

言い換えれば、メディアが長年にわたり結婚を“幸福の象徴”として描き、独身を“孤独で問題を抱えた存在”として扱ってきたことが、社会全体に根深いバイアスを植え付けているのです。

5-3. フェミニズムとシングルライフ再評価の潮流

こうした旧来的な価値観に対して、近年フェミニズムの立場から「独身の肯定」が声高に主張されるようになってきました。

Michael Cobbの著書『Single: Arguments for the Uncoupled』は、結婚制度のもたらす社会的圧力を強く批判し、「独身であることは社会的にも精神的にも強い選択である」と論じています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

また、同著では「結婚という形式に依存しなくても、親密さや共同体は築ける」という立場を取り、従来のカップルモデルを超えた新たな人間関係のかたちを提示しています。

このようなフェミニズム的アプローチは、「誰かに選ばれなければならない」「結婚して初めて一人前」といった神話を解体する動きとして、現代の若年層にとって非常に大きな意味を持っています。

とくに女性の間では、「結婚して家庭に入る」ことに縛られず、自由にキャリアや生き方を選びたいという意識が強まっており、これが“独身でも幸福”という自己認識を後押ししています。

ポイント

  1. 「独身=孤独・不幸」というイメージは、家制度や文化的刷り込みに由来するものであり、実証的根拠に乏しい。
  2. メディアは長年にわたり結婚を「幸福の象徴」として描き、無意識に独身をネガティブに印象づけてきた。
  3. フェミニズムや社会理論は、独身であることを積極的な選択として再評価する動きを強めている。
  4. 価値観の転換により、「独身でも幸せである」という認識が、個人の自尊心や社会的承認へとつながっている。

6. 海外研究に学ぶ:独身者が尊重される社会とは

「独身でいること」は日本ではいまだに少数派扱いされがちですが、世界に目を向けてみると、その受け入れ方や制度設計には大きな違いがあります。特に北欧諸国やアメリカの一部都市では、独身者が“例外”ではなく、“ひとつの当たり前の生き方”として社会に溶け込んでいる例が多く見られます。

この章では、海外の社会制度・税制・都市設計といった観点から、独身者が生きやすい環境とはどのようなものか、そして日本との違いを考察します。

6-1. 北欧・米国で広がる「ソロライフ支援」

まず注目すべきは、北欧諸国における個人尊重の思想です。たとえばスウェーデンやフィンランドでは、結婚やパートナーシップの有無に関係なく、社会保障・医療・住居・子育て支援が提供される仕組みが整っています。

アメリカでも、都市部を中心に一人暮らしを前提とした住宅やサービスが急増。社会学者Eric Klinenbergによる『Going Solo』では、アメリカにおける独身者(特に都市部の単身者)がどれほど積極的かつ自立的に生活しているかが描かれています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

この研究では、単身者の多くが経済的に自立し、友人や近隣とのつながりを積極的に築いており、「孤独で不幸」というステレオタイプとは対極にあると結論づけています。

また、同著では、公共空間・カフェ・コワーキングスペースなどが、一人で来ても居心地が良いように設計されていることが、独身者の生活満足度を支えているとしています。

6-2. 法制度と税制が与える影響

日本では「扶養控除」「配偶者控除」など、結婚していることを前提とした税制優遇が今なお多く存在していますが、これは独身者にとって明らかなハンディキャップとなります。

一方、カナダ・スウェーデン・オランダなどでは、婚姻関係に基づく税制優遇を段階的に廃止・縮小しており、個人単位の課税が基本とされつつあります。これにより、「結婚していないから損をする」といった構造が排除されており、独身でも十分に経済的・社会的に対等な立場で生きていける土壌が整っています。

Bella DePauloは、「婚姻状態によって市民権や税制、社会的資源へのアクセスが左右される現状は、制度的な差別に等しい」とし、婚姻中心主義からの脱却を訴えています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

こうした制度改革の背景には、「多様な生き方を尊重することが、社会全体の幸福度と公平性を高める」という明確な理念があります。

6-3. シングル世帯を前提とした都市設計の可能性

都市の構造や住宅の設計にも、独身者にやさしい設計思想は反映され始めています。

たとえば、ニューヨークやコペンハーゲンでは、ミニマルな個室と共有スペースを組み合わせた“コレクティブ・ハウジング”が急速に普及中です。これは、個人のプライバシーを確保しつつ、コミュニティとしてのつながりも確保する新しい住宅スタイルであり、独身者同士が孤独にならずに暮らせる工夫がなされています。

また、交通や公共施設の設計も、「家族連れ」ではなく「個人の移動」や「一人時間」に配慮されたものが増加中です。図書館や美術館、公園などが「一人でも快適に過ごせる空間」として設計されており、それが結果的に高齢者や障がい者、単身者にとっても優しい都市空間を生み出しています。

こうした都市設計は、日本でも徐々に取り入れられつつありますが、依然として「世帯=核家族」の発想が強く、シングルの暮らしやすさには課題が残っています。

ポイント

  1. 北欧や米国の都市では、独身を前提とした社会制度・住宅設計・コミュニティが整備されつつある。
  2. 税制・社会保障の面でも、個人単位の公平性を重視する流れが加速し、独身者が不利益を受けにくくなっている。
  3. 都市空間の設計にも、独身者の心理的・生活的な快適さを重視する傾向が見られる。
  4. 海外のこうした動きは、「独身=不安・孤独」という固定観念を打破し、多様な幸せのかたちを受け入れる社会づくりのヒントになる。

7. 働く独身者の幸福度と社会的課題

結婚していないことで「職場で肩身が狭い」と感じた経験はないでしょうか。また逆に、「独身だから自由でいいよね」と軽く扱われたことがあるかもしれません。独身者の増加が進む一方で、働く現場では未だに既婚者を基準とした慣習や評価軸が根強く残っています。

この章では、職場における独身者の立ち位置や社会的評価、キャリア・ワークライフバランスの実情について、研究と実例を交えながら掘り下げていきます。

7-1. 職場でのステレオタイプと待遇格差

独身者に対して、「時間があるから残業できる」「年末年始は既婚者を優先すべき」などといった暗黙の役割期待が課される職場は少なくありません。これらは、家庭や子どもがある既婚者を“保護すべき存在”と見なす一方で、独身者を“融通が利くリソース”と扱う不平等な認識に基づいています。

こうした「独身差別(singlism)」については、DePaulo(2023)も制度・文化の両面から強く批判しており、独身者が本来享受すべき平等な労働環境が確保されていないことが大きな問題とされています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

また、日本では管理職や正社員の昇進において「結婚=安定性・責任感がある」という誤った価値判断がなされやすく、独身者が本来の実力とは別に不利な扱いを受ける構造的問題もあります。

7-2. 結婚有無と年収・昇進の関係

労働経済学では「結婚プレミアム(marriage premium)」という現象が報告されており、結婚している男性の方が独身男性よりも年収が高くなる傾向があることが知られています。

一方で、Douglas R. Austromらによる1980年代の調査では、独身者は欠勤率が高く、仕事への満足度が低い傾向があると報告されました(Austrom, Baldwin, & Macy, 2009, https://doi.org/10.1111/J.1936-4490.1988.TB00491.X)。

ただし、同研究は現在の労働環境とは大きく異なる時代背景の中で行われたものであり、現代の独身労働者を取り巻く状況とは必ずしも一致しません。

現在では、独身であることで転勤や転職の自由度が高まり、自己研鑽やスキルアップに時間を投資しやすいというプラス面が評価されるようになっています。特に女性においては、結婚・出産によるキャリア中断を回避できる点で、独身という状態がむしろキャリアの武器になるケースも増えてきました。

7-3. ワークライフバランスを独身者が確保する方法

独身者が「自由な時間を持て余している」という見方は非常に表面的です。むしろ、日常生活のあらゆることを一人でこなさなければならない独身者にとって、ワークライフバランスを意識的に整える努力が求められます。

一方、独身者だからこそ得られる柔軟性も大きな武器です。リモートワーク、副業、自己投資などを積極的に活用し、自分の人生のペースを自分で決める力を発揮している人は少なくありません。

Eric Klinenbergの研究『Going Solo』では、都市部で単身生活を送る人々の多くが、非常に戦略的にライフスタイルを設計し、自分自身のリズムで働き・休み・学ぶ傾向にあると報告されています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

つまり、独身者にとって重要なのは、既存の「家族前提」の社会制度や労働観に押し流されることなく、自らが納得できる働き方・暮らし方を選ぶことなのです。

ポイント

  1. 職場には今なお「独身=時間がある」「融通が利く」といった無意識のバイアスが残っており、不平等な待遇が生じやすい。
  2. 結婚の有無が収入や昇進に影響するケースもあるが、独身者が自由にキャリア形成を図ることで逆転する例も増加。
  3. 独身者のワークライフバランスは「自由で楽」ではなく、むしろ高度な自己管理を要する構造。
  4. 独身を武器にして、戦略的にキャリア・生活・学びを設計することが、満足度を高める鍵になる。

8. 結婚したくないわけじゃないけど、迷っている人へ

「結婚に興味がないわけではない。でも、なぜか踏み切れない」──そんな思いを抱えている人は決して少数派ではありません。むしろ現代においては、結婚を“しない”ことも、“できない”ことも、必ずしもネガティブに捉える必要がない選択肢となりつつあります。

この章では、「迷い」の背景にある本音や社会的プレッシャーを紐解きながら、結婚以外のパートナーシップのかたちや、自分らしい生き方の再定義について考察します。

8-1. 結婚「しない」のと「できない」の違い

結婚をしていない人に対して、「したくてもできないんでしょ?」という無意識の偏見が存在します。しかし、実際には結婚を意識的に“選ばない”人が増えているのが現代の特徴です。

Hannah Tesslerの研究『The Stability of Singlehood』では、独身者の経験が一様でないことを明らかにし、恋愛関係への関心の有無・パートナーシップの希望の有無などによって独身者の在り方は多様であると論じられています(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

この研究は、「結婚していない=不完全」とする見方が、結婚を前提とした社会構造や文化的規範の押しつけであることを示しています。

つまり、結婚を選ばないことは「敗北」ではなく、「違う価値基準で生きている」というだけの話なのです。

8-2. 無理に結婚を選ばないことの意義

自分が本当に望んでいないにもかかわらず、「年齢的にそろそろ」「親を安心させたいから」などの理由で結婚に踏み切ると、結果的に不幸な関係や後悔を招くこともあります。

DePauloはその著作と論文で一貫して、「結婚すべき」という文化的圧力が個人の幸福を阻害している」と主張しています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

実際、多くの研究が、無理に結婚するよりも、納得のいく独身生活を送っている人の方が心理的ウェルビーイングは高いと示しています。自分の人生に対して自律的であるということが、幸福感に直結するのです。

このような観点から、無理に「結婚しなければ」と自分を追い詰めるのではなく、「今の自分にとって本当に必要かどうか」を問い直すことが重要です。

8-3. パートナー関係の再定義:共同生活≠結婚

パートナーシップの形も、もはや結婚に限定される時代ではありません。「結婚」という法的枠組みにこだわらずに、信頼関係に基づく共同生活や、精神的なつながりだけを大切にする関係を築く人々も増えてきました。

たとえば、生活費をシェアしながらも別の家に住む「Living Apart Together(LAT)」や、友人同士で一緒に暮らす「非恋愛的共同生活」などがその一例です。

これらの関係性は、Michael CobbやEric Klinenbergらが提唱する「結婚制度に縛られないつながり」の考え方と共鳴します。特にKlinenbergは『Going Solo』の中で、“個人主義の時代にふさわしい親密さ”として、選択的な距離感を伴う人間関係の可能性を提示しています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

つまり、結婚をしないからといって、誰かと深い関係を築けないわけではありません。むしろ、形式に縛られない関係の方が、より自由で誠実なつながりを育てることができる場合も多いのです。

ポイント

  1. 「結婚しない」と「結婚できない」は本質的に異なり、後者だけで独身者を評価するのは誤り。
  2. 無理に結婚を選ばず、自分が納得した形で生きることは、幸福度に直結する重要な選択。
  3. 結婚以外にも、パートナーシップや親密な関係を築く方法は多様に存在する。
  4. 形式よりも「どう生きたいか」「誰と、どうつながりたいか」に重きを置いた選択が、現代的な幸せの形につながる。

9. 科学的エビデンスで見た結婚・独身それぞれの幸福度の要素

「結婚した方が健康で長生きできる」「独身は孤独で病気になりやすい」──こうした通念は、統計データや科学的エビデンスに基づいたものと見なされがちですが、実際には多くの誤解やバイアスが含まれています。

本章では、精神的安定、健康・寿命、社会的孤立リスクの3つの主要指標をもとに、結婚と独身それぞれの幸福度を科学的に比較し、「本当に幸せになれるのはどちらか?」という問いに対して客観的な視点から検証します。

9-1. 精神的な安定と幸福感の相関は?

長らく、「既婚者の方が精神的に安定しやすい」という主張が支持されてきました。しかし、近年の研究ではその見解に対して再評価が進んでいます。

たとえば、Bella DePauloとElyakim Kislevの共著『Singles and Mental Health』では、横断的な研究では、常に独身でいる人と現在結婚している人の間に幸福度の差はほとんど見られないと結論づけられています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

また、結婚による幸福度の上昇は一時的な「ハネムーン効果」にすぎず、時間が経つにつれて未婚者とほぼ同等の水準に戻ることが、縦断的研究でも示されています。

さらに、離婚や死別といった結婚関係の破綻は、むしろ深刻な精神的打撃をもたらす要因となっており、結婚が必ずしも安定した幸福を保証するわけではないことが明らかです。

9-2. 健康・寿命との関連性はどう違う?

一部の統計では「既婚者の方が寿命が長い」という結果が出ていますが、それらの多くには交絡因子(confounding factors)が存在します。

たとえば、健康状態が良好な人ほど結婚しやすい傾向にある、という逆の因果関係や、病気になった時に配偶者のサポートを受けられるといった要素が、既婚者の健康を高めている要因として働いているにすぎません。

また、『Singles and Mental Health』によると、独身者であっても社会的なつながりを維持している人(友人・地域・趣味活動など)は、既婚者と同等かそれ以上の健康アウトカムを得ていることが報告されています(DePaulo & Kislev, 2023)。

つまり、結婚という形式そのものが健康に直結するわけではなく、支援ネットワークの有無や生活スタイルの質が寿命や健康を大きく左右するのです。

9-3. 社会的孤立リスクはどちらが高いのか?

「独身は孤独で孤立しやすい」というイメージは根強いものの、現実には既婚者であっても高齢になるにつれて配偶者を亡くすケースが多く、結果的に独身と同様、またはそれ以上に社会的孤立に陥るリスクを抱えることになります。

一方で、意識的に独身を選んだ人の多くは、自らの意思で人間関係を構築し、多様なつながりを育んでいることが複数の研究で確認されています。

たとえば、Eric Klinenbergの『Going Solo』では、都市部に住む単身者はむしろ積極的に交流活動に参加し、配偶者中心の関係に頼らない多層的なつながりを構築していると指摘しています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

また、Tessler(2023)の理論では、独身者の中には「パートナーを必要としないが、他者との関係を積極的に築く」タイプが存在し、恋愛依存でない人間関係の豊かさこそが、現代的なウェルビーイングの鍵であるとされています(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

ポイント

  1. 結婚による幸福感の向上は一時的であり、長期的には独身者と大差ないという研究が多数。
  2. 健康や寿命は、結婚の有無ではなく、社会的つながりや生活習慣の質によって左右される。
  3. 独身者の中には、自主的に多層的な人間関係を築き、既婚者よりも豊かな社会参加をしている人も多い。
  4. 結婚しなくても、幸福・健康・つながりの三要素を満たすことは十分に可能である。

10. 自分に合ったライフスタイルを見つけるために

人生における選択は、どれも正解であって、間違いではありません。しかし、未だに「一定の年齢までに結婚するべき」「家庭を持たないと一人前ではない」といった固定観念が根強く残っています。

この章では、結婚か独身かという二元論から解放され、自分に合った生き方を見つけていくための視点を整理します。大切なのは、“世間がどう思うか”ではなく、“自分がどう生きたいか”という視点です。

10-1. 「結婚するべき」ではなく「したいかどうか」

結婚は、社会的圧力によって「するべきこと」とされがちです。しかし実際には、自分自身が望んでいない結婚ほど不幸の種になりやすいことが、数々の研究から明らかになっています。

たとえば、Bella DePauloは「カップル中心主義が、独身であることに対して“欠けた存在”というラベルを貼ってしまう」と批判します(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。このような視点に立つと、結婚は義務ではなく“希望”であるべきであり、「したいかどうか」が重要な判断基準となります。

10-2. 周囲の価値観に流されず、自分軸を育てる

他人の人生と比較して自分の選択を決めることは、幸福感の持続性を奪います。特にSNSによって「リア充」な既婚生活が可視化されやすい現代では、「周囲と同じでないこと=劣っている」と誤解しやすい傾向があります。

しかし、Tessler(2023)は、独身を「未完成の一時的な状態」とする社会的バイアスに異議を唱え、「恋愛関係への開放性ではなく、自分自身の価値観に基づくライフスタイルの選択が幸福につながる」と示唆しています(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

つまり、自分軸を確立することは、既婚・独身どちらの道を選ぶにしても、幸福の土台になるのです。

10-3. どんな生き方も“正解”になる時代へ

歴史的には、女性が自立する手段が限られていた時代に、結婚は経済的・社会的安定を得るための手段として機能してきました。しかし、現代においては誰もが自分の選択で人生を築けるようになりつつあります。

Gordon(1994)は、独身女性が「オールドミス」と「キャリアウーマン」という両極端なイメージで語られることが多いと指摘し、女性に限らず、あらゆる人がその中間の“普通の独身”として生きる権利を持つと論じています(Gordon, 1994)。

結婚して家庭を持つことも、独身で自立した生活を楽しむことも、どちらも尊重されるべき生き方です。そして、それぞれに異なる幸福の形があります。

ポイント

  1. 結婚は義務ではなく選択。自分が本当に望むかどうかが重要。
  2. 周囲の期待やSNSの演出に流されず、自分軸を育てることが幸福の鍵。
  3. 現代は「結婚=正解」「独身=例外」ではなく、どんな選択も正解になり得る時代。
  4. 最も大切なのは、自分にとって心地よく、満たされる生き方を選ぶこと。

11. Q&A:よくある質問

結婚・独身に関する社会の通説や不安には、必ずしも科学的根拠があるとは限りません。この章では、「結婚しない人生」にまつわる代表的な疑問に対して、研究とデータに基づいて答えます。

11-1. 独身は老後が不安って本当?

必ずしもそうではありません。老後の生活における幸福感は、配偶者の有無よりも「社会的つながり」「経済的安定」「自己決定感」が大きく影響します。

Eric Klinenbergの著書『Going Solo』では、高齢の独身者でもコミュニティとの関係を築くことで、孤独を感じずに暮らせることが報告されています(Smock, 2013, https://doi.org/10.1177/1536504213487705)。

11-2. 結婚しないと社会的信用が落ちるの?

かつては「独身=未成熟」と見なされる時代もありましたが、現在では多様なライフスタイルが受け入れられつつあります。

とはいえ、一部の職場や地域では依然として既婚者を「信頼性がある」とする偏見が残る場合もあり、Douglas R. Austromらは独身者に対する職場での待遇格差やステレオタイプの存在を指摘しています(Austrom, Baldwin, & Macy, 2009, https://doi.org/10.1111/J.1936-4490.1988.TB00491.X)。

11-3. 既婚と独身、健康面で差はあるの?

これも一概には言えません。Bella M. DePauloとElyakim Kislevは、多くの健康に関する研究が既婚者に有利なバイアスを含んでいることを指摘し、独身者の健康水準は既婚者と大差ないか、むしろ安定しているケースもあると報告しています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

とくに一度結婚して離婚・死別した人は、精神的ストレスから健康を損ねやすい傾向があります。

11-4. 結婚しないと孤独死しやすい?

孤独死は、「独身であること」自体よりも、社会的孤立と強い相関があります。独身であっても、地域社会や友人とのつながりを維持している人はリスクが低いとされています。

Hannah Tessler(2023)は、独身者が自ら選んだ人間関係を築くことで、孤独ではなく安定した独立性を確保している事例が多いと述べています(Tessler, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12506)。

11-5. 独身者でも愛やつながりは持てる?

もちろんです。結婚や恋愛関係がすべての「つながり」ではありません。家族、友人、地域、仕事など、多様な親密性のかたちが存在します。

DePaulo(2023)は、「The One(唯一のパートナー)」ではなく「The Ones(複数の大切な人々)」を重視することで、独身者はむしろ多様で深いつながりを持つ傾向があるとしています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525)。

11-6. 結婚したら本当に幸せになれるの?

幸せは人によって定義が異なります。研究によると、結婚で一時的に幸福感が高まる場合があるものの、それは長続きしないことが多く、継続的な幸福には個人の性格や環境要因が大きく影響します。

また、離婚や死別などにより、結婚が不幸の要因になることもあると複数の論文が指摘しています(DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

ポイント

  • 「独身=不幸」は過去のステレオタイプに過ぎない。
  • 結婚の有無よりも、自立性・つながり・選択の自由が幸福度を左右する。
  • 独身者の人生にも、充実感・愛・社会的貢献の余地は十分にある。

12. まとめ

これまでの科学的エビデンスと社会的背景を踏まえると、「結婚は当然するもの」「独身は寂しくて不幸」といった従来の価値観は、もはや現代の多様なライフスタイルには合致しないことが明らかです。

たしかに結婚には安心感や制度上のメリットがありますが、それと引き換えに失われる自由や心理的負担、経済的依存関係といった「デメリット」も少なくありません。特に、性役割の固定化や精神的ストレスは、幸福の障害要因になることもあります。

一方、独身であることが、科学的に「劣った状態」であるとは限らないどころか、自由、自己決定権、柔軟な人間関係といった、人生の満足度を高める要素を豊かに含んでいることも多くの研究が示しています(DePaulo, 2023, https://doi.org/10.1111/jftr.12525/DePaulo & Kislev, 2023, https://doi.org/10.1016/b978-0-323-91497-0.00229-0)。

重要なのは、他人や社会の期待に沿って生きるのではなく、自分がどんな人生を送りたいかという軸を持つことです。結婚する・しないは、幸福の絶対条件ではありません。誰かに依存しない愛のあり方、自己成長を伴う人生の歩み方が尊重される時代になってきているのです。

最後に——「結婚 デメリットだらけ?」の問いの答え

結婚にデメリットがあるのは事実ですが、それは独身に「メリットしかない」という意味ではありません。どちらにも固有の価値とリスクがある以上、何を「幸せ」と感じるかは一人ひとり異なります。

だからこそ、「結婚するべきかどうか」を問う前に、「どんな人生を送りたいか」を深く見つめることが、現代における本質的な問いなのです。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


新着記事
  1. どこに行っても孤立する人の特徴と対処法10選

  2. 恋愛で考えすぎる男の特徴と対処法10選|女性が知るべき心理と向き合い方

  3. 喋りすぎて落ち込む…その心理と7つの改善法を解説

  4. 正社員からパートへ:同じ会社での変更理由とそのメリットを解説

  5. 人の容姿を悪く言う男の心理と共通する特徴とは?科学的根拠を基に解明

ピックアップ記事
  1. 誕生日にデートを考えてくれないパートナーの心理と対処法

  2. 「与える」という言葉に潜む「上から目線」の印象と対等な関係性を築くための秘訣

  3. オフィスカジュアルで注意された!避けるべき服装と対策5選

  4. 都会っぽい人の見た目を徹底解剖!おしゃれポイントとコツを大公開

  5. 休み明けに休む人の心理と対策|仕事のモチベーションを保つ方法