生きるために働くのは本来おかしいことではなく、今の働き方や環境とのズレに気づいたサインです。4つのポイントと生きがいチャートを使って、心と生活の安全を守りながら、自分らしい働き方の方向性をやさしく整理していきます。
「生きるために働くのはおかしいのかな…」
ふとそう感じてしまうと、「自分は意識が低いのかな」「もっと頑張らなきゃいけないのに」と、自分を責めてしまいがちですよね。でも、多くの人にとって「生活のために働く」のはごく当たり前のことで、その感覚自体が間違っているわけではありません。おかしいのは、あなたではなく、「壊れそうなのにブレーキを踏めない働き方」や、「気持ちと現実がまったく合っていない状態」のほうかもしれません。
とはいえ、「じゃあどうすればいいの?」というところが一番むずかしいところです。いきなり転職したり、独立したり、劇的な一歩を踏み出すのはとても勇気がいりますし、そもそも体力も気力もギリギリ…という人も多いはずです。この文章では、そんな大きな決断をいきなり迫るのではなく、まずは心と生活の安全ラインを確かめ、そのうえで少しずつ働き方を見直していくための考え方をお伝えします。
キーワードになるのが「生きがいチャート」です。これは「好きなこと」「得意なこと」「世の中から求められること」「お金になること」という4つの円で、自分の働き方や生き方を整理するフレームです。ただし、いきなり“完璧な中心点”を探すのではなく、「今の自分はどの円に偏っているんだろう?」「どこを少しだけ足したり引いたりできるかな?」と、バランスを見直すための地図として使っていきます。
この記事では、
1つ目に「壊れてしまわないための安全ライン」、
2つ目に「好き・得意の棚卸し」、
3つ目に「ニーズとお金を現実的に見る視点」、
4つ目に「いきなり全部変えない小さな調整」
という4つのポイントから、「生きるために働くのはおかしい」と感じる気持ちをほどきつつ、少しずつ自分らしい働き方へ近づく道筋を一緒に整理していきます。全部を完璧にできなくても大丈夫です。今の自分にできそうなところから、そっと拾っていきましょう。
この記事はこのような人におすすめ!
- 「生きるために働くのはおかしいのかな?」と自分を責めてしまい、気持ちが少ししんどくなっている人
- 今の仕事に大きな不満はないけれど、「このまま年齢だけ重ねていくのかな」と将来がぼんやり不安な20〜30代の人
- 転職や独立までは決めきれないけれど、今の働き方を少しでも自分らしい方向に近づけたいと感じている人
目次 CONTENTS
1. 「生きるために働くのはおかしい?」と感じるのは普通です
生きるために働くという感覚は多くの人がもつ当たり前のものです。「おかしい」と感じるのは、あなたが怠けているからではなく、今の働き方・職場環境・社会の価値観とのズレに気づき始めたサインとして受け止めていきます。
「生活のために働いているだけって、おかしいのかな?」
こんなふうに考えた瞬間、自分だけ何か間違えている気がして不安になることってありますよね。まわりは「やりがい」「成長」「キャリアアップ」と前向きな言葉を口にしているのに、自分は「家賃や食費のために働いているだけ」と感じてしまうと、置いていかれたような気持ちにもなりやすいものです。
でも、生きるために働くという感覚そのものは、とても自然で現実的なものです。衣食住をまかなうお金が必要なのは誰にとっても同じで、「まずは生活を守るために働く」のは、多くの人が通るスタートラインです。ここを「もっと崇高な理由がないとダメ」と決めつけてしまうと、それだけで自分を責め続けることになってしまいます。
一方で、「お金のためだけに働く毎日が苦しい」「このまま一生終わるのかな」という気持ちが強くなってきたら、それは今の働き方と自分の大事にしたいものが、少しずつズレてきているサインかもしれません。この記事では、そのズレの正体をやさしく言葉にしながら、「生きるために働く」が「自分なりに納得して働く」に近づいていく道を一緒に探っていきます。
1-1. 「生きるために働く」が普通であるという現実
まず最初にお伝えしたいのは、「生きるために働く」は、むしろ多くの人にとっての出発点だということです。学生から社会人になったばかりのとき、「とにかく生活費を稼がないと」「一人暮らしを続けるには仕事が必要」と考えるのは、ごく自然な流れですよね。そこに「立派な使命」や「燃えるような情熱」がないからといって、価値が低いわけではありません。
また、人生のタイミングによっても、働く目的はゆらぎます。例えば、お金がきつい時期には「収入」が最優先になりやすいですし、少し余裕が出てくると「やりがい」や「働きやすさ」が気になってきます。逆に、家族の介護や子育てをしているときには、「安定」や「時間の自由」が一番大事になることもあります。どれが正解というより、状況に合わせて重心が変わるのが普通なのです。
それなのに、「生きるために働くなんてダサい」「やりがいのない仕事は意味がない」といった極端なメッセージが頭の中にこびりついていると、現実的な自分の選択を、必要以上に否定してしまうことがあります。ここで一度、「生きるために働く」という自分の現実的な感覚を、もう少し優しい目で見直してみてもいいかもしれません。
1-2. 「おかしい」と感じてしまう3つの背景(自分・職場・社会)
それでも、「生きるために働くのはおかしい」と感じてしまう背景には、いくつかのレイヤーがあります。ここを整理しておくと、「自分の問題だけ」だと抱え込まなくてよくなるので、少し気持ちが軽くなりやすいです。
1つ目は、自分自身の考え方や性格の影響です。まじめな人ほど「どうせ働くなら全力でやらなきゃ」「仕事に誇りを持たないといけない」と思い込みやすく、「生活のため」という理由だけでは自分を許せなくなることがあります。完璧主義や「べき思考」が強いと、今の自分を「不十分」「甘えている」とジャッジしがちです。
2つ目は、職場環境や働き方の問題です。長時間労働が当たり前だったり、評価が「どれだけ会社に尽くしたか」だけで決まったりする職場では、「仕事=人生のすべて」という空気が生まれやすくなります。その中にいると、生活のために働くという現実的な感覚が、まるで悪いことのように感じられてしまうことがあります。
3つ目は、社会全体の価値観や空気です。SNSやメディアでは、「好きなことで生きていく」「好きなことを仕事にしよう」というメッセージがたくさん流れてきます。それ自体は素敵な考え方ですが、今はそうできていない自分を責める材料になってしまうこともあります。「やりがいのある仕事じゃないと生きがいがない」ように錯覚してしまうのは、こうした外側の声の影響も大きいのです。
1-3. 「働くために生きている気がする」状態との違い
ここで一度、「生きるために働く」と「働くために生きている気がする」状態の違いも見ておきましょう。生きるために働くこと自体は自然なことですが、そこからいつのまにか、「仕事のために自分の人生のほとんどを差し出している状態」に変わってしまうことがあります。
例えば、こんな感覚が強くなってきていないでしょうか。
- 仕事のことを考えずにいられる時間が、ほとんどない
- 休みの日も、仕事の連絡が来ないかビクビクしてしまう
- 趣味や友人との時間より、常に仕事を優先するのが当たり前になっている
- 「体調が悪くても、迷惑をかけるから休めない」と感じてしまう
このような状態が続くと、働くことが「生活を支える手段」ではなく、「自分のすべてを吸い取る存在」のように感じられてきます。そうなると、「生きるために働いているはずなのに、逆に生きる力が削られている」という矛盾した感覚が生まれ、「こんなの、おかしいよな…」という違和感につながっていくのです。
大事なのは、「生きるために働くのがおかしい」のではなく、心や体を壊してしまうほど仕事に人生を支配されている状態こそ、おかしいと言っていいということです。次の章では、まずこの「危ないライン」を一緒に見直し、これ以上自分をすり減らさないための安全ラインを整えるところから始めていきます。
ポイント
- 生きるために働くという感覚そのものは、ごく自然で現実的なスタートラインであり、それだけで自分を責める必要はありません。
- 「おかしい」と感じる背景には、自分のまじめさ・職場の空気・社会の価値観が重なっていることが多く、あなた一人の問題ではありません。
- 本当におかしいのは、働くために生きているように感じるほど仕事に支配され、心や体を壊してしまう働き方であり、ここから安全ラインを見直していくことが大切です。
2. ポイント1:まず心と生活の安全ラインを見直す
生きるために働いているつもりが、いつのまにか心や体を削る「危険な働き方」になっていないかを確認します。限界を超える前に、自分なりの休むライン・助けを求めるラインを決め、生活と健康を守る土台を整えていきます。
「この働き方、さすがにおかしい気がする…」と感じながらも、辞めるわけにもいかないし、とりあえず続けるしかないと自分に言い聞かせている人は少なくありません。真面目な人ほど、「まだ大丈夫」「もっとつらい人もいる」と自分の感覚を押し込めてしまいがちです。
しかし、心と体にはちゃんと限界があります。生きるために働くはずが、働くことで生きる力が削られているなら、それは一度立ち止まっていいサインです。この章では、危険なサインの見分け方と、今の働き方をチェックするポイント、そしてつらいときの助けの求め方を整理していきます。
無理をしているときほど、「こんなことで相談していいのかな」「自分が弱いだけでは」と感じてしまうものです。だからこそ、あらかじめ自分なりの“安全ライン”を決めておくことが大切です。「ここまできたら、迷わず休む」「ここまできたら、誰かに相談する」そんな基準を、一緒につくっていきましょう。
2-1. 「生きるために働く」が危険ゾーンに変わるサイン
まずは、どんな状態が「危ないラインを越えかけているサイン」と言えるのかを押さえておきましょう。ここでは、ざっくりと3つの視点から見ていきます。
1つ目は、体のサインです。
寝ても疲れがまったく取れない、食欲が極端に落ちた・逆になんでも食べてしまう、頭痛や腹痛・めまいが続く、風邪でもないのに体調を崩しやすくなった…こうした変化が何週間も続いているなら、体はかなり無理をしています。「年のせいかな」と片づけず、仕事との関係を一度疑ってみることも大事です。
2つ目は、心のサインです。
出社前に涙が出てくる、職場のことを考えるだけで動悸がする、何をしても楽しいと感じにくい、好きだった趣味に手が伸びない、朝起きた瞬間から「消えてしまいたい」と思うことが増えた…。こうした状態が続くとき、心はかなり追い詰められています。ここで「気の持ちよう」と片づけてしまうと、本当に動けなくなる手前まで我慢してしまうことがあります。
3つ目は、生活のサインです。
平日は仕事と寝るだけで、家事やプライベートな用事がほとんどできない、休日も疲れ切って寝て終わってしまう、人と会う気力がなくなってきた…。生きるための最低限の生活が回らなくなっているなら、「働くために生きている」状態に近づいていると言えます。生活の土台が崩れ始めたときは、働き方を見直す優先度をぐっと上げていいタイミングです。
2-2. 今すぐ確認したい働き方のチェックポイント
ここからは、今の自分の働き方がどれくらい危険ゾーンに近いのか、ざっくり自己チェックしてみましょう。「全部当てはまらないとダメ」という話ではないので、気楽に見てみてください。
働き方が危険ゾーンかを確かめるチェックリスト
次の項目のうち、いくつ当てはまるか数えてみましょう。
- 週の残業時間がほぼ毎週20〜30時間を超えている
- 仕事のことを考えずにいられる時間が1日1時間もない感覚がある
- 寝つきが悪い・途中で何度も目が覚めるなど、睡眠トラブルが続いている
- 朝起きたとき、「仕事に行きたくない」を通り越して「このまま消えてしまいたい」と思うことが増えた
- 食欲が極端に落ちた、またはストレスで食べすぎ・飲みすぎが続いている
- 些細なミスでも、自分を激しく責めてしまうことが多い
- 以前は楽しかった趣味・遊びに、まったく興味がわかなくなってきた
- 休日も疲れが取れず、ほとんど寝て終わってしまう
- 「自分が休んだら周りに迷惑がかかる」と感じて、体調が悪くても休めない
- 「このまま働き続けたら、いつか本当に壊れるかもしれない」と、ぼんやり不安に感じている
目安として、
- 3〜4個当てはまる → 少し無理がたまっているサイン
- 5〜7個当てはまる → 働き方を真剣に見直したほうがいい状態
- 8個以上当てはまる → 限界に近づいている可能性が高く、早めの休息や相談を強く検討したい状態
もちろん、これはあくまで目安です。「数が少ないから大したことない」と思い込むより、「ひとつでも強く当てはまるなら、ケアしていい」くらいの感覚でいてください。
このチェックをしてみて、「思ったより当てはまっていたな…」と感じた人もいるかもしれません。大事なのは、ここで自分を責めることではなく、今の状況を“見える化”できたこと自体が一歩だと受け止めることです。
2-3. しんどいときに使える相談先・助けの求め方
危険サインに気づいたとき、次のハードルになるのが「どこに、どう相談したらいいの?」という部分です。ここでは、いきなり大きく動けない人でも取りやすい、段階別の助けの求め方を整理します。
まず最初の一歩としておすすめなのは、身近な人に「しんどい」と言葉にしてみることです。家族や友人、信頼している同僚など、「この人なら話しても大丈夫かな」と思える人に、「最近ちょっとしんどくてさ」と軽めに打ち明けてみるだけでも、心の負担は少し変わります。「弱音を吐いてしまった」と思うかもしれませんが、しんどさを共有することも立派なセルフケアです。
次のステップとして検討したいのが、専門家に相談する選択肢です。心や体の症状が続いている場合は、医療機関で相談することも視野に入れてください。「病気と決めつけられたらどうしよう」と不安になるかもしれませんが、実際には「今の状態を整理してもらう」「必要なら休むための診断書をもらう」「今後の働き方を一緒に考えてもらう」といったサポートにつながることが多いです。
また、自治体や職場によっては、無料・匿名で相談できる窓口やカウンセリングサービスが用意されていることもあります。会社の制度として、外部の相談窓口が契約されているケースもありますし、市区町村の相談窓口や、民間の電話相談・チャット相談などもあります。「どこに相談したらいいかわからない」ときは、まずは自分の住んでいる地域や勤め先のホームページを眺めてみるだけでも、利用できる窓口が見えてくることがあります。
もし「今すぐにでもつらい」「自分で自分を傷つけてしまいそう」と感じるほど追い詰められているなら、一人で耐えようとせず、緊急窓口や救急相談に頼ることを最優先してください。生きるために働いているはずなのに、働くことで命の危険を感じるほど追い詰められるのは、本来おかしいことです。あなたの命や健康は、どんな仕事よりも大切に扱っていいものだと、どうか忘れないでいてください。
ポイント
- 体・心・生活の3つのサインから、「生きるために働く」が危険ゾーンに入りかけていないかを確認してみましょう。
- 働き方チェックリストで、今の状態を見える化するだけでも一歩前進です。たくさん当てはまっても、自分を責める必要はありません。
- しんどいときは、身近な人・専門家・相談窓口など、一人で抱え込まないためのルートをいくつか持っておくことが大切です。命と健康は、どんな仕事より優先して守っていいものです。
3. ポイント2:生きがいチャートで「好き」と「得意」を棚卸しする
生きがいチャートの4つの円のうち「好きなこと」と「得意なこと」に注目し、今の仕事や日常に眠っている自分らしさの材料を書き出します。完璧な答えを探すのではなく、「使えそうなタネ」を見つけていくイメージで棚卸ししていきます。
「生きるために働くのはおかしいのかな」と感じるとき、視界に入っているのはたいてい収入や働く時間などの“現実面”だけになりがちです。もちろんそれも大事ですが、それだけを見ていると、だんだん自分自身が「お金を稼ぐ装置」のように思えてしまうことがあります。
そこで一度立ち止まって、「自分は何が好きだったっけ?」「どんなことなら人よりスムーズにできるんだろう?」と、自分の内側にある材料をていねいに拾い直してみるのが、このポイントです。突然「天職」や「使命」を見つける必要はなく、まずはメモ帳に書けるレベルの小さなタネを集めるイメージで大丈夫です。
生きがいチャートでは、「好きなこと」「得意なこと」「世の中が求めること」「お金になること」の4つの円を使いますが、この章ではあえて前半の2つだけにフォーカスします。生活のために働く現実を否定せず、「その中に自分らしさを少しだけ混ぜていく」ための下準備として、一緒に棚卸ししていきましょう。
3-1. 生きがいチャートの4つの円をかんたんに理解する
まずは、生きがいチャートがどんな地図なのかを、さらっとおさらいしておきます。細かい理論よりも、「自分の状況を整理するためのメモ帳」としてイメージしてもらえたら十分です。
生きがいチャートの4つの円は、ざっくり言うと
- 好きなこと(やっていて楽しい・ワクワクすること)
- 得意なこと(人よりスムーズにできる・褒められやすいこと)
- 世の中が求めること(誰かの役に立つ・助けになること)
- お金になること(仕事として対価をもらいやすいこと)
の組み合わせです。真ん中の「完璧な生きがい」を見つけるためというより、自分の今の位置や、偏りやすい方向を見える化する図だと思ってください。
例えば、今の仕事が「お金になること」と「世の中が求めること」の円にはがっつり入っているのに、「好きなこと」「得意なこと」の円にはほとんどかぶっていないとしたら、「生きるために働くのはおかしい」と感じやすくなります。逆に、好きで得意でも、まったくお金につながらないときには、「趣味として楽しむか」「少しずつ仕事に寄せていくか」など、別の悩みが出てきますよね。
ここで大事なのは、「4つの円が全部ぴったり重なる完璧な中心だけが正解」ではないということです。人生の時期によって、どの円を大きめにするか・どの円を少し小さめにするかが変わっていくほうが自然ですし、すべてを同時に満たそうとして苦しくなるくらいなら、「今はここを少しだけ整えてみよう」と決めるほうが現実的です。
この章では、「好きなこと」と「得意なこと」を丁寧に拾い直すことで、後半で扱う「世の中が求めること」「お金になること」とのつなぎ方を考えやすくしていきます。地図のすべてを一気に描こうとせず、まずは2つの円に色を塗っていく感覚で進めていきましょう。
3-2. 「好きなこと」「得意なこと」を洗い出すワーク
「好きなこと、得意なことを書き出してみましょう」と言われても、いざ紙を前にすると手が止まってしまう人は多いです。「大したものが出てこない」「仕事に役立たなさそう」と感じると、ついペンが動かなくなりますよね。
ここでのポイントは、
- 仕事に関係しなくても書いていい
- 子どものころのことでもいい
- 「すごいこと」だけを書く必要はない
というルールで、とにかく数を出すことを優先することです。あとで整理すればいいので、「役立つかどうか」のジャッジは一旦横に置いておきましょう。
好き・得意を書き出すための10の質問リスト
次の質問を読みながら、思いついたことをメモに書き出してみてください。
- 時間を忘れてしまうくらい夢中になれることは何ですか?
- 子どものころから今までで、一番わくわくした遊びや活動は何でしたか?
- これまでの仕事や学校生活で、人からよく褒められたことはありますか?
- 周りの人から、自然と頼まれがちな作業や役割は何でしょう?
- 「それ、どうやっているの?」と聞かれたことがある、自分なりの工夫やコツはありますか?
- お金にならなくても、休日にやっていると気分がよくなることは何ですか?
- 同じ作業でも、他の人より早く・正確にできる気がすることはありますか?
- 誰かの役に立ったとき、「自分らしいな」と感じた、印象に残っているエピソードは何ですか?
- 本屋さんやネットで、つい記事や本を読んでしまう、関心のあるテーマは何でしょう?
- 今すぐにはできなくても、本当はもっと練習してみたいことは何ですか?
すべての質問に答えなくても大丈夫ですし、1つの質問に複数書いてもOKです。大切なのは、「どうせ大したことじゃないし…」と自分で価値を下げず、思いついたものを一度そのまま紙に出してみることです。
書き出せたら、「好きなこと」「得意なこと」にゆるく分けてみましょう。迷うものは、両方にまたがるように書いても構いません。「好きだけど得意とは言えない」「得意だけど好きかどうかは微妙」など、モヤモヤする項目もそのまま残しておくことが、後でヒントになります。
このワークで出てきたものは、今すぐ仕事に直結しなくても構いません。「料理」「ゲーム」「推し活」「片づけ」「Excelで表を作る」…一見バラバラに見える要素が、後半の章で生きがいチャートのピースとしてつながっていくので、安心してカオスなまま持ち歩いてください。
3-3. 重なりから見えてくる「自分らしい働き方」のヒント
ある程度「好き」「得意」が出そろってきたら、次は重なりを眺めていくステップです。ここでいきなり「これが私の生きがいだ!」と一点に決める必要はなく、「ちょっと可能性がありそうなゾーン」をいくつか見つけるイメージでかまいません。
まず、「好き」の欄と「得意」の欄を眺めて、
- 同じ言葉が両方に書かれているもの
- 別の言葉だけれど、セットにするとしっくりくるもの
にマークをつけていきます。例えば、「人と話すのが好き」「相談に乗るのが得意」「友達から恋愛相談をよくされる」などが並んでいたら、「人の話を聞いて整理する」のがあなたらしさの一つかもしれません。
好き×得意の重なりを見つける簡易マップ
イメージをつかみやすくするために、いくつか例を挙げてみます。
- ケース1:人と話すのが好き × 相談に乗るのが得意
→ 接客・カウンセリング・コーチング・面談役など、「対話で人を支える仕事」のヒントに。 - ケース2:コツコツ作業が好き × ミスなく処理するのが得意
→ 事務・経理・データチェック・品質管理など、丁寧さが武器になる仕事につながりやすい。 - ケース3:文章を書くのが好き × 情報を整理するのが得意
→ マニュアル作成・社内報・広報・Webライターなど、「まとめて伝える役割」の候補に。 - ケース4:子どもと関わるのが好き × 人前で話すのが得意
→ 教育・研修・ワークショップ運営・イベント司会など、場づくりの仕事のタネになる。
こんなふうに、好きと得意が重なっているところは、「自分らしく力を発揮しやすいゾーン」になりやすいです。もちろん、ここにぴったり当てはまる仕事にいきなり就かなければいけないわけではありませんが、今の仕事の中に似た要素がないか探してみるヒントになります。
例えば、「今の仕事はあまり好きじゃないけれど、書類チェックの正確さは褒められる」という人なら、「コツコツ作業×正確さ」の強みを、別の部署や別の仕事で活かせないかを考えてみる価値があります。逆に、「好きで得意だけど今の仕事では全然使えていない」という要素があれば、副業や趣味、社内プロジェクトで試してみるのもひとつの道です。
大事なのは、「生きるために働くのはおかしい」と感じるときに、「私は何も持っていない」ではなく、「好きや得意のタネはちゃんとある。今はそれがあまり使えていないだけかもしれない」と捉え直すことです。この視点があるだけで、次の章で扱う「世の中が求めること」「お金になること」との橋渡しが、ぐっと現実的になっていきます。
ポイント
- 生きがいチャートは、自分の今の位置や偏りを見える化するための地図として使うと、プレッシャーが減ります。
- 「好きなこと」「得意なこと」は、仕事に直結しなくてもよく、小さなタネも含めてとにかく書き出すことが第一歩です。
- 好き×得意の重なりを見つけると、「自分らしく力を出しやすいゾーン」が見えます。今の仕事の中や、副業・趣味の中で、そのゾーンを少しずつ増やしていくイメージを持っておきましょう。
4. ポイント3:生きがいチャートで「世界のニーズ」と「お金」を現実的に見る
生きがいチャートの「世界が求めること」と「お金になること」を、きれいごとではなく現実的な目線で整理します。今の仕事がどの円に寄っているのかをセルフマップで確認し、理想とのギャップを少しずつ埋める発想を身につけていきます。
「好き」と「得意」はまだ書きやすくても、「世界のニーズ」と「お金」となると、急にハードルが上がったように感じる人も多いと思います。「世の中に求められることなんて分からない」「お金になるかどうかなんて、自分には判断できない」と感じると、そこで手が止まってしまうんですよね。
でも、ここで大事なのは、“世界のニーズ”をいきなり地球規模の大問題として考えないことです。あなたの身の回りで困っている人、会社の中で「誰かやってくれないかな」と思われていることも、立派なニーズです。同じように、「お金になること」も、年収やステータスの話だけではなく、生活を続けていけるだけの収入が得られるかどうかという、とても現実的なラインから考えてかまいません。
この章では、まず「世界のニーズ」「お金」をどう捉え直せばいいのかを確認し、そのうえで今の仕事が生きがいチャートのどこに位置しているのかをセルフマップで可視化していきます。最後に、「理想と現実の間でどう動けばいいのか分からない」という悩みに対して、全部をひっくり返さずに少しずつギャップを縮める発想をまとめていきます。
4-1. 「世界が求めること」と「お金になること」をどう捉えるか
まずは、「世界のニーズ」と「お金になること」のハードルを少し下げておきましょう。ここで構えすぎると、「自分には何もない」と落ち込むだけで終わってしまいます。
世界が求めることと聞くと、環境問題を解決するとか、社会を変えるような大きなことを想像しがちですが、実はもっと身近なレベルでも大丈夫です。例えば、社内で誰もやりたがらない雑務をきちんとやってくれる人、分かりにくい仕組みを分かりやすく説明してくれる人、空気をやわらげてくれる人も、立派に「周りから求められている役割」を果たしています。「目の前の誰かの役に立っているかどうか」も、十分“ニーズ”の一部なのです。
一方、お金になることも、「高年収の職業」だけを指しているわけではありません。今のあなたの生活費、将来に備えたい金額、心の余裕を保つために必要なラインは、人それぞれ違います。「このくらいの収入があれば、とりあえず生活は回せる」「少しは貯金もできる」という、自分なりの“安心ライン”をざっくり決めることから始めてみてください。
ここで意識しておきたいのは、「世界のニーズ」と「お金」を片方だけで考えないことです。役に立つけれど全くお金にならないこと、儲かるけれど誰の役にも立っていないように感じること、どちらも極端に振り切れると、どこかで苦しさが出てきます。完璧なバランスを求める必要はありませんが、「今の自分の仕事はどちら側に偏っているんだろう?」と一度立ち止まってみるだけでも、見える景色が変わってきます。
4-2. 今の仕事が生きがいチャートのどこに位置しているか整理する
ここからは、今の仕事が生きがいチャートの4つの円のどこに位置しているのかを、ざっくりセルフマッピングしてみましょう。細かい評価ではなく、「なんとなく○か△か×か」くらいの感覚で十分です。
紙の真ん中に今の職種や仕事内容を書き、その周りに「好き」「得意」「ニーズ」「お金」の4つの項目を置きます。それぞれについて、次のように軽く自己評価してみてください。
- 好き
- ○…基本的には楽しく、やっていて時間が早く感じる
- △…嫌いではないが、特別ワクワクもしない
- ×…正直、できればやりたくないと感じることが多い
- 得意
- ○…人よりスムーズにできている実感がある
- △…平均くらい。とくに苦手でも得意でもない
- ×…いつも苦労していて、ミスや注意が多い
- ニーズ(周りからの必要度)
- ○…「助かった」「助かる」と言われることがよくある
- △…なくても回るが、あれば便利な役割だと感じる
- ×…誰の役に立っているのか、自分でもよく分からない
- お金
- ○…今の生活と、ある程度の貯蓄・ゆとりがもてている
- △…ギリギリだが、なんとか生活できている
- ×…生活の不安が大きく、常にお金の心配をしている
今の仕事を4つの円に当てはめるセルフマップ
上の自己評価をもとに、簡単なメモを作ってみましょう。例えばこんな感じです。
- 好き:△(人と話す仕事は嫌いじゃないが、書類作成はあまり好きではない)
- 得意:○(数字やスケジュール管理は得意で、よく頼まれる)
- ニーズ:○(部署の調整役として、いないと困ると言われることがある)
- お金:△(生活はできるが、貯金はあまり増えない)
こうして整理すると、「今の仕事は、好きよりも得意とニーズに寄っている」「お金はギリギリだけど、まったく成り立たないわけではない」など、自分の立ち位置が少し見えてきます。逆に、「得意でもないし好きでもないけれど、お金のために続けている」「誰の役に立っているか分からないのに、時間だけ取られている」といった状態なら、“おかしさ”を感じるのはむしろ自然だと分かってきます。
セルフマップができたら、「今すぐ全部を変える」前に、まずはどの円を少しだけ動かしたいかを考えてみましょう。例えば、「お金の円は今はこのままでもいいから、好きの円を少し増やしたい」「ニーズの円は十分だから、得意な部分をもっと活かせるポジションに寄せたい」など、方向性が見えてくるはずです。
4-3. 「理想」と「現実」のギャップを埋める柔らかい発想法
セルフマップを作ると、多くの人が一度は「やっぱりこの仕事、向いてないのかな…」と落ち込みます。さらに、「どうせなら4つの円が全部○になる仕事に行きたい」と思うと、理想と現実のギャップが大きすぎて動けなくなることもあります。
ここで役に立つのは、「理想を一気に叶えよう」とするのではなく、ギャップを“ちょっとだけ”縮める発想です。やってしまいがちなNGパターンと、その代わりの考え方を並べてみます。
理想と現実のギャップを少しだけ縮める発想のヒント集
- NG:いきなり「4つの円が全部○になる仕事」に転職しようとする
→ OK:まずは「今の仕事の中で○に近づけそうな円」を1つだけ選び、そこでできる工夫を考える - NG:「お金にならないから」と、好きや得意を全部封印してしまう
→ OK:仕事以外の時間や小さな副業、社内プロジェクトなどで、一部だけでも試してみる場をつくる - NG:今の仕事が完璧に合わないと感じた瞬間に、「全部やめるか、全部続けるか」の二択で考えてしまう
→ OK:働き方の比率を変える(残業を減らす・シフトを調整する・担当業務を相談する)という中間の選択肢を探してみる - NG:理想の働き方を、年収や肩書きだけで決めてしまう
→ OK:一日の時間割や、関わる人、気持ちの状態など、生活全体でどんなバランスにしたいかから考えてみる
こうした発想の転換を少しずつ積み重ねていくと、「どうせ何も変えられない」と感じていた状況の中にも、動かせる部分が意外と残っていることに気づきやすくなります。生きがいチャートは、「理想の一点」を見つける地図というより、「どの方向に一歩動くと、今より少し楽になれそうか」を探るためのコンパスだと思っておくと、ぐっと使いやすくなります。
理想を追い求めること自体は悪いことではありませんが、その過程で自分を追い詰めてしまうのはもったいないです。今の現実を否定せず、「この現実の中で、できることを1ミリずつ足していく」という姿勢が、結果的には大きな変化につながることも少なくありません。
ポイント
- 「世界のニーズ」は、地球規模の課題だけでなく、身近な人や職場が助かることも含めて考えてよいものです。
- 今の仕事を「好き・得意・ニーズ・お金」の4つでセルフマッピングすると、どこに偏りがあるのか、どこを少し動かしたいのかが見えやすくなります。
- 理想と現実のギャップは、全部を一気に埋めるのではなく、NGパターンを避けながら“ちょっとだけ縮める”発想を続けることで、少しずつ自分らしい働き方に近づいていけます。
5. ポイント4:「全部変える」前にできる小さな働き方の調整
いきなり転職や独立で人生をひっくり返さなくても、今の職場や働き方の中でできる小さな調整から始めることはできます。生きがいチャートで見えた「好き・得意・ニーズ・お金」のバランスを参考に、ミニ実験を重ねながら働き方を少しずつ自分寄りにしていく考え方を整理します。
「この働き方、おかしい気がする。でも、いきなり会社を辞めるのも怖い。」
そう感じている人は、とても多いと思います。生活のために働いている現実がある以上、「全部やめる」「全部我慢する」の二択しかないように感じてしまうのは、ある意味自然な反応です。
ただ実際には、その間にあるグラデーションはたくさんあります。業務の量や内容を少し調整することも、働く時間帯を工夫することも、好きや得意を今の仕事の中に1ミリ足してみることも、立派な「働き方を変える一歩」です。この章では、そうした小さな調整とミニ実験の具体例を見ていきます。
大きな決断をする前に、今の環境でどこまで動かせるかを試してみることには大きな意味があります。それでうまくいけばラッキーですし、限界がはっきりしたなら「あ、やっぱりもう少し大きく動いてもいいんだな」と判断しやすくなります。白か黒かではなく、「グレーゾーンでできること」を一緒に探していきましょう。
5-1. 今の職場でできる小さなアレンジ例
「職場を変えないと何も変わらない」と思いがちですが、意外と同じ職場の中でも、働き方を少しだけ自分寄りに調整できる余地は残っていることが多いです。ここでは、生きがいチャートの4つの円をヒントにしながら、「これなら試せそうかも」というミニアレンジを見ていきます。
例えば、「好き」や「得意」の円が今の仕事でほとんど使えていないなら、得意な作業を少し多めに担当させてもらうよう相談してみるのもひとつの手です。「数字の管理は得意なので、集計や分析の仕事をもう少し任せてもらえますか?」のように、具体的にお願いできると、上司もイメージしやすくなります。
逆に、「お金」と「ニーズ」の円にはかなり寄っているけれど、「好き」がほとんどない場合には、仕事の中で“好きを混ぜられるポイント”を探してみるのも有効です。人と話すのが好きなら、打ち合わせや新人フォローの役割を増やしてもらう、文章を書くのが好きなら、マニュアル作りや社内のお知らせ文を引き受けてみる、といったイメージです。
1週間だけ試してみるミニアクションアイデア集
ここからは、「まずは1週間だけ」と決めて試せるミニアクションの例を並べてみます。全部やる必要はないので、「これならできそう」と感じるものを1〜2個選ぶくらいの気持ちで読んでみてください。
- 毎日、仕事終わりに「今日できたこと」を3つメモする時間を5分だけ作る
- 残業時間の上限を決め、「この時間を過ぎたら基本的に帰る」と自分内ルールを決めてみる
- 得意な作業や好きな仕事を1つ選び、「この1週間はそれを意識的に多めに引き受けてみる」と上司や同僚に軽く伝えてみる
- 苦手で時間のかかる作業を1つ選び、やり方を人に聞いたり、テンプレを作ったりして負担を減らす工夫をしてみる
- 昼休みを仕事の延長にせず、スマホを離して外に出る・音楽を聴くなど“完全オフタイム”を15分でもつくる
- 毎日1回だけ、「これは自分の人生のため」と思える小さな行動(勉強・運動・趣味など)を仕事の前後に組み込んでみる
- 週の初めに、「今週はこれができたらOK」というゆるい目標を1つだけ決めておく
こうしたミニアクションは、劇的に状況を変えるものではありませんが、「自分は何も変えられない」という感覚を少しずつ溶かしていく効果があります。1週間試してみて、「これは続けやすい」「これは合わなかった」と感じたら、合わなかったものは遠慮なく手放して構いません。
大切なのは、「変えられない現実」にフォーカスし続けるのではなく、「自分で動かせる範囲」を少しずつ広げていくことです。そうすることで、たとえ同じ職場でも、「ただ耐えているだけ」の時間から、「自分で選んでいる感覚のある時間」に、ほんの少しずつ変わっていきます。
5-2. 副業・転職・働き方の変更を検討するときのステップ
小さなアレンジを試してみても、「やっぱりこの環境では限界があるな」と感じることもあります。そのときに浮かぶのが、副業や転職、働き方そのものを変える選択肢ですよね。ただ、ここでもいきなり「今すぐ辞めるか、現状維持か」の二択で考えてしまうと、不安だけが大きくなって動けなくなってしまいます。
そこでおすすめなのが、段階を踏んで検討することです。いまの自分のエネルギーや生活状況を踏まえつつ、「これなら進めそう」というペースで進められるようにステップを分けておきましょう。
環境を変える前に踏んでおきたい4ステップ
- 生きがいチャートの現状を整理する
まずは、これまでの章で書き出した「好き・得意・ニーズ・お金」をもとに、今の仕事の位置をざっくり確認します。どの円に偏っているのか、どの円がほぼ空白なのかを見える化しておくことで、「何を変えたいのか」がはっきりしてきます。 - 欲しい働き方の条件を3つに絞る
「給料も高くて、残業もなくて、人間関係も最高で…」と全部を叶えようとすると、どんな求人を見ても物足りなくなってしまいます。そこで、絶対に譲りたくない条件を3つだけ書き出すことから始めます。残業時間なのか、仕事内容なのか、リモートの可否なのか、自分にとって大事なものを明確にします。 - 小さな実験として、副業や社内異動などを検討する
いきなり本業を変える前に、「試しにやってみる場」をつくるのもひとつの道です。週に数時間の副業、社内の別部署への異動相談、短期のプロジェクト参加など、今の生活をいきなり崩さずに試せる選択肢がないか探してみましょう。 - それでも難しければ、転職や働き方の変更を本格検討する
ミニ実験や社内調整でもどうにもならないと分かったときは、「転職」「フリーランス」「派遣」「パート」など、働き方そのものを変える選択肢を現実的に考えてみます。そのときも、「理想100%」を狙うのではなく、「今より少しマシな方向に寄せる」くらいでも立派な前進だと考えてみてください。
この4ステップを踏んでいくと、「なんとなく辞めたい」「とりあえず転職サイトを眺める」というモヤモヤした状態から、「自分は何を変えたいのか」「そのためにどの順番で動くのか」が見えやすくなるはずです。
環境を変えるのは、大きなエネルギーがいることです。それでも、「ずっとこのままはつらい」と感じているなら、小さな準備を積み重ねながら、少しずつ出口の方向に身体を向けておくことが、自分を守ることにもつながります。
5-3. 生きがいチャートを定期的に見直すシンプルな習慣
最後に、「一度書いて終わり」にならないようにするための、生きがいチャートとの付き合い方をまとめておきます。働き方や気持ちは、時間がたつにつれて少しずつ変わっていきます。一度決めた働き方が永久不変である必要はありません。
おすすめなのは、数か月に一度くらいのペースで、「ミニ見直しタイム」をとることです。難しいことをする必要はなく、手帳やノートを開いて、「好き」「得意」「ニーズ」「お金」の欄に最近の変化を書き足してみるだけでも構いません。「あれ、前よりこの仕事が少し好きになってきたかも」「ここはやっぱりまだしんどいな」といった気づきが出てきたら、それだけで十分な収穫です。
もう一つのポイントは、生きがいチャートを「自分を責める材料」にしないことです。「まだ中心にたどり着いていない」「4つの円が全然そろっていない」と落ち込むためではなく、「今の自分の位置を優しく確認するための地図」として扱ってあげてください。地図を見て、「じゃあ次の一歩はどの方向がよさそうかな」と考えられれば、それでこのチャートは十分役目を果たしています。
生きるために働くことは、決しておかしいことではありません。ただ、その中で自分の好きや得意がまったく使えず、心や体を削られているなら、「少しずつ自分に寄せてあげる」ことは何度でもチャレンジしていいことです。生きがいチャートは、そのチャレンジを支える小さなコンパスのような存在だと思って、気楽に使っていきましょう。
ポイント
- 職場を変えなくても、今の業務内容・時間・役割の中でできる小さなアレンジから始めることで、「自分は何も変えられない」という感覚を少しずつ和らげられます。
- 副業・転職・働き方の変更は、生きがいチャートの現状整理 → 条件を3つに絞る → 小さな実験 → 本格検討というステップで考えると、現実的に動きやすくなります。
- 生きがいチャートは、一度の答え合わせではなく、数か月ごとに今の自分の位置を優しく確認するための地図として使い、「少しずつ自分に寄せる働き方」を何度でも試していけると安心です。
6. Q&A:よくある質問
「生きるために働くのはおかしいのか」「生きがいチャートがうまく書けない」など、この記事を読んだときに多くの人が抱きやすい疑問に答えながら、不安やモヤモヤを少しでも軽くできるように整理します。
ここまで読んでくると、「頭では分かるけれど、やっぱり不安…」という気持ちが出てきやすいタイミングだと思います。特に、働き方や生きがいの話は正解がひとつではないぶん、「自分はこれでいいのかな?」と迷いやすいですよね。
この章では、よくある5つの質問を取り上げて、できるだけやさしい言葉でお答えしていきます。全てを一度に消化しなくて大丈夫なので、「これは今の自分に近いかも」と感じるところを中心に読んでみてください。
6-1. Q1:生きるために働くだけではダメですか?
結論から言うと、生きるために働くこと自体は全くダメではありません。むしろ、多くの人にとって「生活費を稼ぐ」「家族を養う」といった理由は、とても現実的で大切な動機です。ここを否定してしまうと、自分の生活そのものを否定することになってしまいます。
「ダメなんじゃないか」と感じるのは、多くの場合、周りの価値観や情報の影響です。SNSやメディアでは、「好きなことで生きていく」「仕事に情熱を」というメッセージが目立ちやすく、生活のために働いている自分を、つい低く見てしまう空気があります。でも、生活を守ることは決してレベルの低い目標ではなく、土台としてとても重要なことです。
もし今、「生きるために働く」だけで精一杯なら、それはそれでかまいません。心と体の余裕が少し出てきたときに、そこに自分らしさをほんの少し足していくイメージを持てれば十分です。いきなり「生きがい100%の仕事」に移行しなくても、今の仕事の中で好きや得意を生かせる場面を増やしたり、仕事以外の時間に生きがいのタネを育てたりすることでも、バランスは少しずつ変わっていきます。
6-2. Q2:生きがいチャートを書いても何も思いつきません
生きがいチャートを書こうとして「紙が真っ白のまま…」というのは、実はよくあることです。特に長く忙しい状態が続いていると、「自分が好きなこと」「得意なこと」に意識を向ける余裕がなかった人も多いので、いきなり出なくて当然とも言えます。
そんなときは、いくつかハードルを下げてみましょう。まず、「仕事に役立つものだけを書かないといけない」という思い込みを外すことです。「ゲーム」「漫画」「推し活」「散歩」「動画編集で遊ぶ」など、一見仕事と関係なさそうなものも、立派に“好き”の欄に書いてOKです。後で必要なら、そこから仕事に寄せる方法を考えればいいだけです。
それでも出てこないときは、「自分一人の記憶」だけで考えないのもポイントです。家族や友人に「私って、何が得意そうに見える?」「昔からよくやってたことってあった?」と聞いてみると、自分では当たり前すぎて気づいていなかった強みが出てくることがあります。何も思いつかないときは、「今は疲れすぎているのかもしれない」と受け止めて、少し休むことを優先しても大丈夫です。
6-3. Q3:お金にならない「好き」が生きがいでもいいですか?
もちろんです。「生きがい=お金になること」ではありません。
生きがいチャートで「お金になること」という円が独立しているのは、生活を成り立たせるための視点を持つためであって、「お金にならない好きは価値がない」という意味ではまったくありません。
たとえば、仕事の疲れを癒やしてくれる趣味、地域のボランティア、家族との時間、推し活や創作活動など、お金を生み出さないけれど心を支えてくれるものは、間違いなく人生の大切な柱です。むしろ、それらがあるからこそ、「生きるために働く」日々を続けていける人も多いはずです。
大事なのは、「お金になる好き」と「お金にならなくてもいい好き」を分けて考えることです。前者は将来、仕事や副業に育てていけるかもしれませんし、後者は純粋に自分の心の栄養として大切にしていい領域です。どちらも「生きがい候補」ですし、「お金にならないから」と切り捨ててしまう必要はまったくありません。
6-4. Q4:仕事以外に生きがいがあってもいい?
もちろん、仕事以外に生きがいがあってもまったく問題ありません。
むしろ、仕事一本に生きがいを集中させすぎると、仕事がうまくいかないときに心が折れやすくなってしまいます。「生きがいのタネは、いくつかに分散しておく」と考えると、リスクヘッジにもなるイメージです。
たとえば、仕事は「生活のため+ある程度のやりがい」、それとは別に、趣味の活動や地域のコミュニティ、家族との時間、学び直しなどに“生きがい度の高い時間”を置いておくという形も、立派な働き方・生き方のひとつです。仕事が100点満点の生きがいでなければいけない、というルールはどこにもありません。
「生きるために働くのはおかしい」と感じるのは、多くの場合、仕事が人生のほとんどを占めてしまい、他の生きがいのタネが育つ余地がなくなっているときです。もし可能であれば、仕事の比率をほんの少しだけ下げて、仕事以外の生きがいに時間やエネルギーを分けてあげることも、長い目で見ると大きなプラスになります。
6-5. Q5:どうしてもつらいとき、何から動けばいい?
「何をしてもつらい」「将来のことを考える余裕なんてない」というくらいしんどいときは、無理に前向きなことをしようとしなくて大丈夫です。生きがいチャートも、働き方の工夫も、その前提として「最低限の心と体の余裕」が必要になります。まずはそこを回復させることが、いちばん大事な一歩です。
具体的には、次のような順番で考えてみてください。
1つ目は、睡眠・食事・休息を少しでも整えることです。完璧に整えるのは難しくても、「今日はいつもより30分早く寝てみる」「コンビニでもいいから温かいものを選ぶ」など、本当に小さなところからで大丈夫です。
2つ目は、誰かに「つらい」と言葉にしてみること。家族や友人に一言でも伝えるだけで、「一人で抱え込んでいる状態」から少し抜け出せます。
3つ目は、必要に応じて専門家や相談窓口に頼ることを選択肢に入れること。自分を守るために人の力を借りるのは、弱さではなく大事なスキルです。
働き方を変えること、転職や副業を考えることは、そのあとでも遅くありません。「何かしなきゃ」と自分を追い立てるより、「今は安全確保と回復を優先していい時期だ」と認めることが、結果的には次の一歩を踏み出す力になります。動けるようになってきたときに、この記事のワークの中から「これならできそうかな」と思えるものをひとつ選べたら、それで十分です。
ポイント
- 「生きるために働く」は決してダメではなく、とても現実的で大切なスタートラインです。そこに少しずつ自分らしさを足していけばOKです。
- 生きがいチャートは、完璧な答えを出すためではなく、今の自分の位置やタネを見える化するツールとして気楽に使うのがおすすめです。
- どうしてもつらいときは、働き方を変える前に、安全確保・休息・相談を優先していいタイミングだと考えてください。動けるようになった先で、少しずつ働き方や生きがいのバランスを整えていけば大丈夫です。
7. まとめ
生きるために働くのは本来おかしいことではなく、おかしいのは心や体をすり減らす働き方です。生きがいチャートで4つの視点を整理しながら、小さな実験と調整を重ねていくことで、今の現実を大切にしつつ自分らしい働き方へ少しずつ近づいていくことができます。
「生きるために働くのはおかしい」と感じるとき、多くの人は自分を責めがちですが、本当は今の働き方と大事にしたいもののズレに気づいたサインでもあります。この記事で見てきたように、問題なのは「生活のために働く」ことではなく、心や体を壊してしまうほど仕事に支配されてしまう状態のほうです。
そして、その違和感をほどいていくカギのひとつが、生きがいチャートの4つの円でした。好き・得意・ニーズ・お金という視点で自分の現状を整理すると、「何もない」と感じていた中にも、ちゃんと自分らしさのタネや動かせるポイントがあることが見えてきます。そこから、小さな一歩をどう重ねていくかが大事になってきます。
7-1. 生きるために働くのはおかしくないが「壊れる働き方」はおかしい
まず一番伝えたいのは、生きるために働くという感覚自体はまったくおかしくないということです。生活費を稼ぐ、家族を養う、自立するために働く…どれもとても現実的で、立派な理由です。それを「意識が低い」「やりがいがない」と決めつけなくて大丈夫です。
一方で、「生きるために働いていたはずなのに、働くことで生きる力が削られている」と感じるようになったら、それは働き方のほうがおかしくなっているサインかもしれません。睡眠や食事が乱れ、休んでも疲れが取れない、仕事のことを考えると涙が出てしまう…。そうしたサインが積み重なっているなら、あなたが弱いのではなく、今の状態に無理がかかっていると見てよいと思います。
だからこそ、まずは心と体と生活の安全ラインを見直すことが最優先でした。どこまで来たら「迷わず休む」「一人で抱え込まず相談する」と決めておくことで、「まだ大丈夫」と自分をごまかし続ける危険から少し距離を置けます。生きるために働いているのに命を削ってしまうような働き方は、本来おかしい、と安心して言っていいのです。
7-2. 4つのポイントと生きがいチャートで自分の位置を確かめる
次に、違和感をほどきつつ働き方を見直すための、4つのポイントを振り返ります。ポイント1では、安全ラインを確認し、危険なサインや働き方のチェックリストで、自分の状態を見える化しました。ここで初めて「思ったより頑張りすぎていたかもしれない」と気づいた人もいたかもしれません。
ポイント2・3では、生きがいチャートを使って、「好き・得意」と「ニーズ・お金」を別々に棚卸ししました。好きと得意の重なりからは「自分らしく力を発揮しやすいゾーン」が見えてきますし、ニーズとお金の視点を加えると、今の仕事がどこに偏っているのかが見えてきます。「全部○にする」のではなく、「どの円を少し動かしたいのか」を決めることが、最初の一歩でした。
ポイント4では、そうして見えてきた自分の位置から、いきなり全部を変えなくてもできる小さな調整を考えました。今の職場での役割のアレンジ、1週間だけのミニ実験、副業や社内異動という小さなトライ…。生きがいチャートは、完璧な答えを示す魔法の地図ではなく、「次の一歩の方向を決めるコンパス」として付き合っていくのがちょうどよいのかもしれません。
7-3. 今すぐできるおすすめアクション!
ここまでを読んで、「少しやってみようかな」と思えたら、その気持ちを忘れないうちに、ごく小さな一歩を決めてしまうのがおすすめです。完璧な計画より、「今の自分にできる行動」を1つでも実行してみることが、いちばんの変化につながります。
- 今日か明日、働き方チェックリストをもう一度見て、自分の状態を丸をつけながら確認してみる
- ノートやスマホに、「好きなこと」「得意なこと」をとりあえず5つずつ書き出してみる(仕事に関係なくてOK)
- 1週間だけ、仕事終わりに「今日できたこと」や「少しでも楽だったこと」を3つメモする習慣を試してみる
- 今の仕事について、「好き・得意・ニーズ・お金」の4つに○・△・×をつけてセルフマップを作ってみる
- 信頼できる誰かに、「最近ちょっと働き方がしんどくてさ」と、一言だけでも本音を話してみる
- 仕事以外の時間に、自分の心が少し軽くなること(散歩・推し活・趣味など)を30分だけ確保する日を作ってみる
- 「これ以上は無理をしない」と決めるための、自分なりの休むライン・相談するラインを紙に書き出しておく
どれか一つでも、できそうだと思うものを選んでみてください。生きるために働くことは、決しておかしいことではありません。「おかしい」と感じるその感覚を、壊れそうな自分を守るためのセンサーとして大事にしながら、少しずつ生き方と働き方のバランスを自分らしい方向へ寄せていく。そのための小さな一歩を、今日のどこかでそっと置いてみてもらえたらうれしいです。
ポイント
- 生きるために働くこと自体は自然で、おかしいのは心や体を壊してしまうほどの働き方のほうだと整理しておきましょう。
- 生きがいチャートの4つの円を使うと、好き・得意・ニーズ・お金のバランスから、今の自分の位置と動かしたい方向が見えやすくなります。
- 大きな決断の前に、チェックリストやミニアクションなどの小さな実験を積み重ねることが、自分を守りながら働き方を変えていくいちばん現実的な方法です。
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